今のは、違うでしょ

「……何、見るの?」


 珠鈴と手を繋ぎながら、映画館に着いた私は、そう聞いた。

 

「あ、あれ、だよ」


 すると、私にくっつきながら、珠鈴は今から見るっていう映画を指さしてくれた。

 そこには、この前私が珠鈴の部屋で見た女の子同士の恋愛漫画が映画化されていた。

 ……あれ、映画化されたんだ。……と言うか、今、見るの? せっかく、さっきまでの気持ちがちょっと治まってきてるのに。……いや、漫画で見た限りでは、別にえっちなシーンは無かったから、大丈夫だとは思うけど、キスシーン位はあったから、それで、余計に意識しちゃいそうなんだけど。


「……嫌、だった?」


 私が何も言わなかったからか、珠鈴はふあんそうに、そう聞いてきた。

 ……ストーリー自体、面白いと思ったし、嫌では無いんだけど、タイミングが……いや、まぁ、もう大分さっきまでの気持ちは収まってるし、大丈夫か。


「嫌、じゃないよ」

「ほんと?」

「ん。この前、珠鈴の部屋で読んだだけだけど、面白かったし」


 私は頷きながら、そう言った。

 

「良かった」


 すると、珠鈴はこんな人目があるのに、私に抱きつきながら、そう言ってきた。

 ……まぁ、人目があるって言うのも、今更か。こんなに堂々と手を繋いでるんだから。

 そう思って、つい、頭を撫でようとしてしまったところで、私は思った。

 ……あれ、もうこれ、付き合ってるようなものじゃない? 告白とかしてないだけで、こんなに人目も憚らず、こんなにイチャイチャしようとしてるんだから。


「……珠鈴、私たちの関係って、何?」


 もしかしてもう、私たちは付き合ってるんじゃないかと思って、私はそう聞いた。

 ……昔、何かの漫画で、告白とか無しで、自然と付き合うみたいなものを見たから、私達もそうなんじゃないかと思って。


「えっ、あっ、そ、それは……親、友、かな……」


 すると、珠鈴は悲しそうに、私のことをギュッ、と抱きしめてきながら、そう言ってきた。

 自分勝手なのは分かってる。でも、こう思わずにはいられなかった。

 ……そんな顔するくらいだったら、今、告白してくれたらいいのに、と。

 もう、いっその事、今から、私が告白、しようかな。……もう少し、この関係を続けたいって気持ちはあるけど、付き合ったら付き合ったで多分、なんで早く付き合わなかったんだろうって思うと思うから。


「い、今は、だけど」


 そう考えて、私が珠鈴に好きだと伝えようとしたところで、珠鈴はさっきまでの悲しそうな表情が嘘だったみたいに、笑顔になりながら、そう言ってきた。

 そんな珠鈴の顔を見た私は、思わずドキッ、としてしまった。……可愛い。……別に、珠鈴の笑顔を見るのが初めてなわけでもないのに、ドキッとしてしまった。

 ……そう言えば、珠鈴が私に初めて話しかけてくれた時も、こんな笑顔で、今とは違う意味で、ドキッとしたっけ。


「珠鈴、好きだよ」

 

 気がついたら、私はそう言っていた。

 ……まだ、言う気無かったんだけど、まぁ、いっか。


「えっ、う、うん。し、親友として、でしょ? わ、私も、好き、だよ」


 ………………確かに、私たちの関係は親友って話だったけどさ、今のは、違うでしょ。


「早く、チケット買いに行こ」


 理不尽かもしれないけど、少し不機嫌になりながら、私はそう言って、チケットを買いに行った。

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