私もかなり単純

 映画のチケットを珠鈴と隣同士の席で取って、適当な飲み物だけを買ってから、席に着いた。

 そして、まだ不機嫌だった私は、珠鈴の方の肘掛けに手を置くという、小さい、本当に小さい嫌がらせ……みたいなものをして、少しでもスッキリしようとしていた。

 すると、珠鈴は顔を赤くしながらも、私の手の上に手を置いてきた。


「ッ」


 一瞬、びっくりして、体がビクッ、となってしまったけど、それだけで、特に手をどかすようなことはしなかった。

 ……だって、ただ、手を置かれただけなのに、さっきまでの、私の不機嫌な気持ちが、一気に無くなっていたから。

 我ながら、単純だと思う。……でも、好きな人に触れられたら、こうなるのも仕方ないよ。……いつも珠鈴のことを単純単純と思ってたけど、私もかなり単純だったみたい。

 ……あれ、と言うか、私が不機嫌になる前の、少しえっちな気持ちが無くなってる。……良かった。これで普通に映画を楽しめて、珠鈴とイチャイチャ……じゃない。触れ合える。


 そう思って、私は、一度手を引っ込めて、珠鈴の手を改めて、握った。……指を絡ませるようにしながら。

 チラッ、と珠鈴の反応を見るために、珠鈴の方を見ると、珠鈴はさっきより顔を赤らめて、さっきの私みたいにびっくりしていたけど、直ぐにはにかんでくれて、珠鈴の方からも手を握り返してくれた。


 ……どう考えても、普通の親友同士ですることでは無いと思うんだけど、珠鈴はまだ、気づいてくれないのかな。

 

 そう考えていると、映画が始まった。

 

 


 そして、映画も多分終盤。

 漫画通りだったら、そろそろキスシーンだなぁ。と私が考えていると、珠鈴がいきなり手をギュッ、ギュッ、としてきた。

 よく分からなかったけど、可愛い、と思って、私の方からも、手をギュッ、ギュッ、として、返した。


 そうしていると、漫画通り、キスシーンになった。

 ただ、漫画とは少し違って、主人公の部屋で、ヒロインが主人公を押し倒して、無理やり唇を奪うような形だった。

 もちろん、主人公もそれを望んでいて、無理やりなのは形だけで、全然無理やりじゃないんだけど。

 あれだ、私に催眠術を掛けて、無理やり、勝手にキスをしてるんだと思ってる珠鈴みたいな感じだ。……あれ? ちょっと違うかな? ……わかんないや。ともかく、主人公達が幸せそうだから、いいってことだよ。

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