珠鈴の気持ちを知ったからこそ

 …………いつもの事なんだけど、下手すぎる。私の絵。……人間に見えないんだけど。

 

 そう思いながらも、私は一生懸命少しでも上手く描く為に、視線を上に上げて、珠鈴の顔を見た。

 すると、珠鈴もちょうど私のことを見てたみたいで、目が合った。

 

「――ッ、か、描けた?」


 そして、私と目があった珠鈴は、顔を赤くしながら、そう聞いてきた。

 ……そういえばだけど、珠鈴の気持ちを知る前、こうやって、美術の時間の時、顔が赤くなってたことあったかも。……珠鈴の気持ちを知ったからこそ、こうやって、気がつけたんだ。

 そう思うと、私は自然と笑がこぼれていた。


「な、何?」


 そんな私は珠鈴に見られてることを思い出して、急に恥ずかしくなってきたから、顔を隠すようにして、そう聞いた。

 

「描くため、だよ? 璃花こそ、ど、どうしたの?」

「……私も、描くために見てただけ」

「じゃあ、顔、隠さないで、璃花」

「う、うん」


 私は頷いて、恥ずかしい気持ちを我慢しながら、顔を隠すのをやめた。

 だって、隠してたら、珠鈴が私のことを描けなくなるから。……私のせいで、珠鈴の成績が落ちるのは嫌だし。


 ……私も描こ。

 描くのに集中してたら、この恥ずかしい気持ちも無くなるでしょ。顔が熱いのも、直ぐに冷めるはず。

 




 そうやって、珠鈴のことを描いていると、恥ずかしい気持ちもいつの間にか忘れてて、チャイムが鳴った。

 ……今日も、下手だなぁ。私の絵。

 

「璃花、描けた?」

「……一応。いつも通り、下手だけど」

「見せて」


 私は正直、見せたくなかったけど、見せないわけにもいかないし、私は頷いて、私が描いた珠鈴の絵を見せた。


「こ、この前よりは、成長してると思うよ! 目とか、ちょっと、似てると思う」


 すると、珠鈴は私に気を使ったのか、そう言ってくれた。

 ……そう言われたら、そう思わないでもないけど、下手なことには変わりないと思う。


「それより、珠鈴は、どんな感じ?」


 もう、こんな下手な絵を見せるのは恥ずかしくて、そんな絵を隠しながら、私はそう聞いた。

 珠鈴はこんなに可愛いのに、私の絵が下手すぎて、魅力が全然描けてないし、嫌になるから。


「私は……こ、こんな感じ、かな」


 …………え? 

 いつも通り、上手い。上手いのは分かる。……でも、なんで、私が笑ったところなの? 恥ずかしいんだけど。

 ……でも、だからといって、今から消してなんて言えるわけないから、私は曖昧に頷いて、教室に戻ろうと言った。


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