催眠術にかかったフリをしないと

「珠鈴、どうしたの?」


 珠鈴に手を引かれて、人気のないところに連れてこられたところで、私は珠鈴にそう聞いた。

 

「これ、見て」


 すると、珠鈴は突然そう言って、スマホの画面を見せてきた。そこには、昨日の催眠術の画面があった。

 ……え、ここ、学校だよ? まずい、でしょ。……でも、ここで催眠術にかかったフリをしないと、昨日も、実は催眠術にかかってなかったってバレちゃう。


 そう思って、私は催眠術にかかったフリをするために、それ以上は何も喋らずに、ボケーッとした。


「璃花」


 すると、珠鈴は私のことを呼びながら、抱きついてきた。


「私だけ……なんだから」


 そして、私に抱きついたまま、そう呟くように、珠鈴が言ってきた。

 ……何が、私だけなんだろ。

 

「璃花も、抱きしめて」


 私が疑問に思っていると、珠鈴がそう言ってきた。

 私はその言葉を聞いて、珠鈴の言う通りに、珠鈴を抱き締め返した。


「んへへ、璃花……」


 私が珠鈴を抱きしめ返すと、珠鈴は幸せそうな声が漏れ出すように、私のことを呼んできた。

 

 そのまま時間が経って、私が、もう休み時間が終わるんだけど、いつまでこうしてるつもりなんだろう、と思っていると、珠鈴は残念そうに、私に抱きしめるのをやめるように言って、教室に戻るように言ってきた。


 ……え、催眠術、解いてくれないの?


 私がそう困惑していると、珠鈴が言ってきた。


「あ、えっと、い、今のことは全部忘れて……えっと……こ、この休み時間は、ね、寝てたってことに、して!」


 ……考えてなかったんだなぁ、と思いながら、私は言われた通り、黙って教室に向かった。

 そして、机に座ると、うつ伏せになってから、わざとらしく、顔を上げた。


 すると、前の席に座っていた、珠鈴と目が合った。

 

「……なんか、寝てたみたい」


 目が合ったから、何も言わない訳にはいかないと思ったから、私はそう言った。

 これが、昨日みたいに、キスされてたんだとしたら、少しだけ動揺で、喋れなかったかもしれないけど、今日は、抱きつかれただけ、だから。


 ……なんで、抱きついてきたんだろう。……人肌を感じてみたかったとか? でも、なんで急に? ……よく、わかんないや。


「う、うん。そ、そうだね」


 私がそう考えていると、珠鈴がそう言ってきた。

 ……まぁ、いっか。

 そう思って、私は二限目の授業の準備をした。

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