なかったことに

「ん……」


 朝目が覚めて、私は一番に昨日のことを思い出してしまった。

 ……催眠術にかかったフリをしたら、珠鈴にキスをされてしまったことを。

 夢……なわけないもんね。……親友とキスをする夢なんて見るわけないし。


 そう考えながらも、私はベッドから起き上がって、学校に行く準備をした。

 ……珠鈴と顔を合わせても、いつも通り、振る舞わないと。……そうしないと、あの時催眠にかかってなかったってバレちゃうから。……バレたら気まずいし、もう、無かったことにしちゃおう。


 そう思って、私は朝食のパンを食べてから、制服に着替えて、荷物を持って学校に向かった。

 




「珠鈴、おはよ」


 教室に入って、自分の席にカバンを置きながら、前の席の珠鈴にそう言った。

 よし、いつも通り、挨拶出来たはず。


「あ、璃花、お、おはよう」


 珠鈴は私の顔を見るなり、顔を赤くして、不自然にならないように手で顔を隠しながら、そう言ってきた。

 ……もし、私が昨日本当にに催眠にかかってたんだとしたら、少しくらいしか不自然に思わなかったかもしれないけど、何をされたかを知ってるから、珠鈴がめちゃくちゃ動揺していることが分かった。


「珠鈴、一限目ってなんだっけ」


 私は珠鈴の動揺を無視しながら、そう聞いた。


「あ、うん。す、数学だよ」

「ありがと」


 私は珠鈴にお礼を言って、数学の授業の準備を机から取り出した。

 




 そしてそのまま、授業が始まった。

 始まったところで、私の隣の席の人が数学の教科書を忘れたみたいで、見せて欲しいって言ってきた。

 私は頷いて、机をくっつけたところで、珠鈴がこっちを見てるのに気がついた。

 私はどうしたのかと思って、授業中だから、声を出さずに首を傾げたんだけど、珠鈴は私が首を傾げたのを見ると、普通に前を向いていた。


 よく分からないけど、授業中だし、私は取り敢えず気にしないようにして、教科書を隣の人と一緒に見た。


 そして、チャイムが鳴って授業が終わると、隣の人に改めてお礼を言われて、机を離した。

 机を離したところで、珠鈴に話しかけられた。


「璃花、ちょっと、来て」


 珠鈴はそう言って、私の返事を聞く前に、私の手を引いてきた。

 私は、別に断る気があった訳じゃないから、大人しく珠鈴について行った。

 

「珠鈴、どうしたの?」


 珠鈴に手を引かれて、人気のないところに連れてこられたところで、私は珠鈴にそう聞いた。

 

「これ、見て」


 すると、珠鈴は突然そう言って、スマホの画面を見せてきた。そこには、昨日の催眠術の画面があった。

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