たった一言

 珠鈴の手を握ると、普段、握ってくるとしたら珠鈴の方からで、私からは絶対しないからか、珠鈴はびっくりしたような反応をしていたけど、直ぐに顔を赤らめながら、受け入れてくれて、珠鈴の方からも手を握ってきた。

 そしてそのまま、歩きにくいくらいの距離に近づいてきた。

 

 まぁ、別にいいけどさ。

 可愛いし。……それに、今、珠鈴をこういう風にしたのは私だし。

 そう思って、私は歩きにくいのを我慢しながら、そのまま珠鈴の家に向かって歩き出した。

 

「ね、ねぇ、璃花」

「何?」


 そうして、珠鈴と一緒に歩いていると、突然、珠鈴は緊張した感じで、私の名前を呼んできた。

 いきなり、なんだろ。……もしかして、告白、される? ……昨日、あんなこともしたし、全然、有り得る。


「あ、あのさ、昨日の夜のことって、覚えてる?」

「流石に、忘れてないけど」


 なんなら、忘れられるはずがない。

 ……それは、珠鈴も同じはず。……なのに、なんでわざわざそんなこと聞いてくるんだろ。

 まさかだけど、催眠術のせいで、私がああなったとか、思ってないよね? ……どうしよう。珠鈴だったら、有り得る。

 だって、今日の朝だって、勝手に変な勘違いしてたし。


「なんで?」

「な、なんとなく?」


 ……どっち、なんだろ。

 催眠術なのかを確かめようとして、聞いてきたのか、本当になんとなく、聞いてきただけなのか。

 分からない。……でも、もう、いいかもしれない。……珠鈴に、私から、好きって伝えても。

 両思いだってことは、分かってるんだし、もう、私がちゃんと好きって言わないと、遠回しな言い方じゃ、珠鈴は安心してくれないって分かったし。

 

「珠鈴…………着い、たよ?」


 告白、するつもりだった。

 なのに、私の口から出てきた言葉は、そんな言葉だった。

 

「あ、う、うん。……じゃあ、またね、璃花」

「あっ……」


 キスもしたことがある、体だって、重ねた。なのに、なんで、たった一言、好きって言葉くらい、言えないの?

 そう考えていると、珠鈴はそそくさと、私にそう言って、自分の家に帰っていった。

 ……言えなかった。……両思いだって分かってるのに。

 告白って、分かってても、勇気が必要なんだ。……まだ、さっき告白しようとした時の胸のドキドキが残ってる。

 ……帰ろ。……暗くなってきてるし、いつまでも、ここにいる訳にはいかないから。

 

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