責任取ってもらわないと困るよ

「ま、待って、璃花、んっ」

「嫌なの? 珠鈴」


 必死に私を止めて来ようとしている珠鈴に私はそう聞いた。

 声を聞けば分かる。止めようとしているのは、嫌がっているからではなく、単純に困惑、理解出来ていないからだと。

 その上で、私は気がついていないふりをしながら。

 初めて催眠術にかけられた振りをした時にも思ったけど、私、演技は下手な方じゃないからね。


「い、嫌じゃない、けど」

「じゃあ、いいよね」


 そう言って、私は珠鈴に何度目か分からないキスをした。

 ……そろそろ、舌も入れたいな。あの時みたいに。


「り、璃花……さ、催眠術、は? ど、どうなってるの?」


 ……正直、今までのこともあるし、このまま珠鈴のことをら好き放題にしたいんだけど、そろそろちゃんと話さないとダメかな。

 ……このままいくと、本当にこのまま無理やりみたいな感じで珠鈴と初めてをしちゃうかもだし。

 初めてはお互い、ちゃんとしたいもんね。

 ……まぁ、実際には、一度しちゃってるんだけど、あの日のことはノーカウントってことにして、今日が初めてってことにしよう。うん。それでいいはず。


「もう分かってるでしょ? 珠鈴」

「え?」

「催眠術なんて、最初から存在しないんだよ」


 そう思って、私は遂に、珠鈴に催眠術なんて存在しないことを打ち明けた。

 

「ぇ? あ、え? で、でも、そ、そんなの、おかしいよ。だ、だって、私、いつも璃花に最低なこと……」


 そう言う珠鈴は次第に泣きそうな表情になっていく。

 ……さっき、ちゃんと好きだって伝えたのに、今更何があろうと嫌いになんてなるわけないのに。……と言うか、それも全部催眠術にかかった振りだから、私の意思みたいなものだし。


「最低なことなんてされてないよ」

「そ、それは覚えてないだけで……」

「言ったでしょ? 催眠術なんて最初から無いんだって。つまり、私が珠鈴の催眠術にかかった振りをしてただけってことだよ」


 そして、私のそんな言葉を聞いた珠鈴は、さらに困惑してしまった。


「な、え? あ、え? ふ、振り? え? じ、じゃあ、今までのこと、ぜ、全部、お、覚えて、るの?」

「覚えてるよ。珠鈴が一日中私をノーパンノーブラで過ごさせたこととかも、もちろん覚えてるよ」


 あの時は本当に恥ずかしかった。

 今でも思い出したら、恥ずかしさでどうにかなりそうになっちゃうくらい、恥ずかしかった。

 ……なんか、あの日のことを思い出したら、勝ち負けじゃないけど、ベッドの上で珠鈴に負けたことも思い出してきたな。

 ……早く珠鈴に催眠術のことを説明して、押し倒そう。

 それで、今日は私が珠鈴の体を好きにしよう。


「ぇ? じ、じゃあ、ぜ、全部、今までのこと全部、り、璃花の意思で、やってた、ってこと?」

「……そんな言い方したら、私が変態みたいじゃん」


 実際もう変態なのは理解してるけど、それは珠鈴のせいなんだから、そんな言い方しないで欲しい。


「元はと言えば、珠鈴が変な命令をしてきたからでしょ。……でも、その命令を聞いたのも私の意思だし、変な自己嫌悪に苛まれないでね」


 そう思いながらも、私はそう言った。


「で、でも、わ、私、やっぱり、璃花には釣り合わないよ」


 すると、珠鈴はこの期に及んでそんなことを言ってきた。

 私の最愛の人は本当に何を言っているんだろうか。

 釣り合う釣り合わないなんてどうでもいい。私は珠鈴じゃなきゃ、ダメなんだよ。

 と言うか、珠鈴が催眠術でそうしたんだよ。責任、取ってもらわないと困るよ。

 こんな変態にもされちゃったんだし。

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