気持ちが分かるから

「珠鈴、学食行こ」

「う、うん」


 珠鈴も着替え終えたところで、私はそう言った。

 いつも学食で食べてるから。

 学食で食べてるって言っても、珠鈴は自分で作ってきて、お弁当だから、学食で料理を買ってるのは私だけだけど。


「ね、ねぇ、璃花?」

「何?」


 珠鈴と一緒に学食に向かって歩いていると、珠鈴は遠慮がちに、私の名前を呼んできた。

 ……さっきの催眠術のこと、かな。


「え、えっと……体育の授業が終わった後って、何、してたんだっけ」


 私がなんて言われるのかを予測していると、珠鈴は私と目を合わせないようにしながら、そう聞いてきた。


「……何言ってるの? 普通に喋ってて、遅くなったから、急いで更衣室に向かったんでしょ」


 そして、私は咄嗟にそう答えた。

 無理があるかもだけど、催眠術にかかってたってことになってるんだから、大丈夫なはず。


「う、うん。そ、そうだったね」


 やっぱり、大丈夫だった。

 

 私が珠鈴と一緒に安心していると、食堂に着いた。


「珠鈴、私、何か買って席取ってるから、お弁当、持ってきていいよ」

「う、うん。いつもありがとね!」

「ん」


 ぱぁ、と顔を笑顔にして、お礼を言ってくる珠鈴に頷いて、私は何か料理を買いに、列に並んだ。

 すると、珠鈴はお弁当を取りに、教室に戻って行った。


 今日は何食べようかな。

 

「あ、く、楠さん」

「あ、桜井。桜井も学食?」


 列に並んでると、突然、桜井に声をかけられたから、私はそう聞いた。

 

「は、はい。そう、です。……え、えっと、く、楠さんも、ですか?」

「ん。そうだよ」


 桜井にそう聞かれた私は、素直に頷いておいた。

 ホントのことだし。


「……そ、そうなん、ですか。……い、一緒に、食べたり……しま、せんか?」


 すると、桜井は勇気を振り絞るようにして、そう言ってきた。

 ……正直、私も桜井となら、普通に喋れるし、食べたい気持ちもあるけど、今日は珠鈴と食べる約束をしてるし、断らないと。……勇気を出してもらったところ悪いけど。

 普通なら、珠鈴もいるけどいい? って聞いて、一緒に食べようとするんだろうけど、絶対、桜井は嫌がると思う。

 あれだ。私たちみたいなコミュ力が低い人だと、友達の友達とかといると、地獄だから。桜井をそんな地獄に招く訳にはいかない。


「ごめん。他の人と食べる約束してるから。……今度、一緒に食べよ」


 そう考えて、私はそう言った。

 最後に私も勇気を出して、今度一緒に食べようと誘いながら。


「そ、そう、ですか……」

「ん……連絡先、交換、する?」

「い、いいんですか!?」

「ん」


 やった。これで、家族以外の連絡先が二人に増えた。

 私がそう心の中で思っていると、列が進んでいたから、私はハンバーグがあるやつを頼んだ。


「じゃあ、私、行くから」

「あ、は、はい」


 そして、私は桜井にそう言って、席を取るために、空いている席を探し始めた。

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