信じて

「ありがとうございました〜」


 店員さんのそんな声を後ろに、私はくまのぬいぐるみをカバンに詰め込んで、店を出た。

 よし、プレゼントも買えたし、早く帰ろう。

 一人でここにいるのは、ちょっとキツいし。

 

 


 そう思って、家への道を歩いていると、突然、スマホが震え出した。

 ……電話だ。……珠鈴からの。


「……もしもし?」


 流石に無視はありえないから、電話に出た。


「……今、どこいるの?」

「……もう少しで家に帰るところ、だけど、なんで?」


 何となく、理由は分かるけど、私は気がついてないふりをしながら、そう聞いた。

 

「…………ご褒美、欲しい」

「ッ、な、何の?」

「……えっちなの」


 正直に言うと、まさか、本当にそんなことを要求してくるとは思ってなかった。

 いや、正確には、催眠術を掛けてから、何かをしてくるのかと思ってた。……だって、催眠術にも何にも掛かってない私にそんなことを言ってくるって、もう、それは告白、みたいなものじゃん。


「…………家の前で、待ってるから」

「あっ、ま、待って……」


 私の言葉を聞く前に、珠鈴は一方的に電話を切ってしまった。

 ……プレゼントがカバンの中に入ってるって理由と、単純に、そのご褒美は珠鈴の誕生日の日、私が告白した後に、もし、ご褒美が欲しいのなら、その時にあげたい。

 だから、それとなくそんなことを言いたかったのに。


 そう思いながらも、帰らない訳にはいかないから、珠鈴との電話で一度止めていた歩みをもう一度進めて、家に向かった。

 

「あ、り、璃花……お、おかえり」

「……ただいま。……取り敢えず、家入る?」


 大丈夫だとは思うけど、中身がバレる可能性もあるから、私はさっさとカバンを自分の部屋に置きたくて、そう言った。


「う、うん」


 すると、顔を赤らめながら、珠鈴は頷いて、私と一緒に家に上がってきた。

 いや、まだ、あげないからね? ご褒美。


「珠鈴、荷物置いてくるから、そこで待ってて」

「……う、うん」


 珠鈴をリビングのソファに座ってもらった私は、そう言いながら、自分の部屋に向かった。

 そして、部屋に着いた私は、カバンをベッドの上に置いて、直ぐに珠鈴のいるリビングに戻った。

 

「珠鈴、ご褒美はまた今度、だからね?」

「ぇ……ぁ、な、なんで……? ご褒美、くれるって言ったのに、嘘、だったの?」

「誕……あ、いや、う、嘘では無い、よ」


 誕生日の日に。そう言おうと思ったんだけど、そんなことを言ったら、誕生日の日に、私が何かをしようとしていることがバレちゃうかもしれないし、やめた。

 考えすぎかもしれないけど、サプライズ? 的なのにしたいから。

 

「じゃあ、何、してたの? 私に秘密でどこに行って、何、してたの?」

「……絶対、いつか言うから、今は聞かないで」

「……」


 私がそう言うと、珠鈴はいつもみたいに、スマホを取り出そうとしてきたから、私は直ぐに珠鈴に抱きついて、スマホを出させないようにした。


「珠鈴、信じて。ご褒美は、10日以内に絶対、あげるから」

「…………信じる、から」

「うん」

「あ……もうちょっと、このままがいい、です」


 私を信じてくれた珠鈴から離れようとすると、珠鈴はそう言って、私に離れないように言ってきた。

 ……珠鈴、これ、もう私の気持ちに気がついてくれてるんじゃないかな。……鈍感な珠鈴だけど、これだけ言えば、流石に気がついてくれるよね。

 私の気持ちに気がついてなきゃ、催眠術無しでこんなこと言ってこないと思うし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る