一人だったら読まないと思うし

 あれから珠鈴に信じてもらった後は、いつもより珠鈴との距離感が少し……いや、かなり近かったこと以外は特に何事もなく、そのまま珠鈴は帰っていった。


 そして、誕生日の前日の日になった。

 学校も終わって、私は今、近所のコンビニに来ていた。

 適当なケーキを買うつもりだからだ。

 いや、最初は普通にケーキ屋さんに行って、誕生日ケーキを買っておこうと思ってたんだけど、珠鈴の両親とかが普通に誕生日ケーキを買ってる可能性もあったし、私はコンビニのちっちゃいやつにすることにしたんだ。

 これならそこまでお腹も膨れないだろうし。


 2個ともチョコケーキでいいよね。

 珠鈴、チョコとか好きだったはずだし、私も嫌いじゃないしね。


「これ、お願いします」


 そう思いながら、レジにチョコケーキ2個を持っていった私は、そう言って、お金を出した。

 そして、袋にチョコケーキ2個を入れてもらって、コンビニを出た。

 ケーキが溶けても困るし、さっさと帰ろう。

 

「……あ、桜井」


 そう思っていると、コンビニを出たすぐそこで、桜井を見つけた。

 私が思わず呟くと、桜井も私に気がついたみたいで、頭を下げて、私に近づいてきた。

 この前もこのコンビニで桜井と会ったよね。……家、近いのかな。


「あ、お、お久しぶりです」


 ……学校で挨拶したとは思うけど。

 まぁ、多分だけど、なんて声を掛けたらいいのか分からなかったから、そんなことを言ったんだと思うし、これは桜井の為にも、触れない方がいいかな。


「ん。奇遇」

「は、はい……二回目、ですね。楠さんと、ここで会うの」

「桜井は、家、近いの?」

「は、はい。すぐそこ、です。……よ、良かったら、よ、寄っていきませんか?」


 一応、桜井は知らないけど、私は学校帰りにコンビニに寄ってるから、カバンも持ってるし、この前桜井に借りた本もまだ入れっぱなしなんだよね。

 ……正直、一人だったら読まないと思うし、いい機会かな。


「ん。桜井がいいなら、寄らせてもらっていい? この本、読みたいし」

「は、はい! 大丈夫、です」


 多分……いや、確実に、桜井も勇気を出して誘ってくれただろうし、断る理由もなかったから、私はそう言った。

 

「……あ、そういえば、冷蔵庫借りても大丈夫? これ、入れておきたいんだけど」

「は、はい。大丈夫、ですよ」


 良かった。

 チョコケーキだし、溶けたら大変なことになっちゃうしね。


「じ、じゃあ、早速、行きましょう。こ、こっちです」


 そして、桜井はそう言って、私を家に案内しようとしてくるけど、コンビニに行こうとしてたんじゃないの?


「……コンビニ、行かないの? 何か買いに来たんじゃなかったの?」


 そう思って、私はそう聞いた。


「あっ、そう、なんですけど、大丈夫、です」

「……ならいいけど」


 桜井がいいのなら、私から言うことは無いし、私はそう言って、家に案内してくれる桜井に着いていった。

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