実験体
今の世の中は非常に便利になったものだ。
「……ふむふむ」
自分では絶対に読むことの出来ないフランス語で書かれた書類というのも、今の翻訳機を使えばかなり簡単に読むことが出来る。
僕は翻訳機を駆使して、この場に散らばっていた書類を整理しながら、その中身を精査していた。
読み進めていくうちにわかった、いや、調査し始めの初期から割とわかっていた、ここの研究所を使っていた組織の名。
「……やっぱ、人理教か」
それは、ちょっと前に一線交えた人理教だ。
ここは彼らが、実験を行っていた施設に間違いないだろう。
「……科学の発展に犠牲はつきものというが、あまりにも度合いがすぎるんじゃないかな?」
ただ、その実験の内容というのはかなり凄惨なものだったが。
人理教にとって、重要なのは人の命などではなく、やっぱり科学、何だろうな。
自分たちの科学技術で誰か個人を救うわけではなく、ただ、人類を霊長たらしめるだけ。その強さと科学の万能さを求めているのだろう……いや、普通にただただ研究したいだけなのかも。
「ちょっと過激すぎるでしょ」
行われている実験は多種多様。
そして、非常に凄惨だ。公的な機関では絶対に出来ないであろう非人道的な実験がここで行われていた。
数多の分野で多数の失敗がここの研究所では積み重ねられ、そして、幾つかの成果も出していた。
「……最終的には失敗したみたいだけど」
書類を精査していた僕はその手を止め、ゆっくりと立ち上がる。
そんな僕の耳にはこちらへと近づいてきている
『ァ、ァァァ……』
「うーん……人って、魔物に変えられるんだね」
それらの方に視線を向けて見れば、そこにいるのは人と魔物が強引に融合させられた歪で、醜悪な存在が立っていた。
体の半分は幼い泣き続けている少女の姿。
ただ、その残りの半身は数多の魔物が混ざり、様々な要素が溢れ出ている、醜悪に、そして、歪に膨れ上がっていた。
『ァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!』
この研究所は内側から崩壊した。
そして、それを引き起こしたのは、ここで行われた人と魔物の配合実験において、最も成功に近づいた個体であると共に、最大の失敗作。
ひたすらに暴走し続けるこの、少女と魔物が一つとされた存在によって、崩壊させられたのだ。
自分たちの作った実験体によって、崩壊された研究所なんて滑稽でしかない。
まぁ……全然笑いごとにならないけど。
「……どうしようかな」
泣きはらし、悲鳴をあげる。
そんな存在を前にして、僕は悩ましい声を漏らすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます