最下層

 新しくなった具現領域。

 それを使いこなし、僕は以前に苦戦させられた九尾の階層を一人で超え、そのまま最終到達階層も突破。

 一人で最下層にまで降りてくることが出来ていた。


「……ここまで楽々に来れると少し、不気味な感じも覚えるけどね」


 急なレベルアップにも程がある。

 ここまでうまく行くと少し……これでいいのかという思いも飛来してくるけど、今はそんなことを考えているようなときもないでしょう。

 地上では今、地獄みたいな状況になっているのだから。

 今もなお、神格を持ったありえないレベルの魔物がたくさんいるからね。


「それで、最下層に降り立ったわけだけど……マジで何もないな」


 最下層に降り立って、僕は今、ただ長い長い廊下を進み続けていた。

 魔物は出てこないし、道中に何かあるわけでもない。

 そんな、ただただ長いだけの廊下を僕は突き進み続ける。


「……おっ」


 それを五分くらい突き進んだ後、僕はようやく広い空間へと出てきた。


「───あそこと同じ」


 そんな僕がまず、この最下層でたどり着いた広い空間を見て思ったこととしては、何かうちの神社にある社殿の最奥に広がっているあの広大な空間と似ているということだった。



 ───よく、来たね。


 

 なんてことを思っていた瞬間、僕の頭の中に一つの声が響いてくる。


「……っ」


 それを受け、僕は迷うことなく膝を折り、頭を垂れる。



 ───顔を、見せて?


 

 慌てて頭を下げた僕ではあるが。


「はい」


 次に自分の頭の中に響いてきた言葉に従い、僕は頭を持ち上げる。


「お久しぶりです」



 ───あぁ、久しぶり。


 

 頭の中に響いてくる言葉に従って僕が顔を上げれば、自分の前に存在なされているのは自分が幼少期の時期に同じ時を過ごした神さまだった。


 

 ───君が、ここまで来るのを待っていたよ。地上が、大変なことになっているみたいだね。



「はい。その通りにございます」


 今、僕の前にいるのは紛れもない、魔物ではない明確な神さまだ。

 その神さまを前に、僕はただただ神主として従い続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る