天音家
話にほとんどついていけていない僕はそのまま、輝夜さんへと押し切られるような形で座らせられる。
「それで───」
そして、すぐに話を始めようとした輝夜さん。
「輝夜」
その頭を天音さんが小突き、強引に止める。
「いたっ!?何するの!?」
「貴方だけ勝手に一人で何もかもを見透かして、動くのは貴方の欠点よ」
「うぐっ」
「下がりなさい。私が話すわ」
そして、そのまま天音さんは輝夜さんを追い出して、自分の前へと腰掛ける。
「ぶすぅ」
そんな暴虐無人な天音さんの態度を見て、輝夜さんは不満げに言葉を話すが、それを無視して、彼女は僕の前で言葉を話し始める。
「まず、私たちの家についての簡単な概要について語るわ」
「はい」
「とはいっても、そこまで大した話じゃないけど。私たちの家は昔から続く名家、言わば華族であると共に、代々受け継いできた幾つもの事業を持った実業家一族でもあるわ」
「……いや」
全然大した話だったけど?
「それで、私の父は日本がバブル崩壊で致命的な傷を負いそうになっているのを、得てすれば30年以上続く大停滞につながるとまで予感した父は、ちょうどこのタイミングに出来たダンジョンに活路を見出したわ。私の父はダンジョンへと事業を傾け、大成功。世界有数の大企業にまで成長したわ。その企業が万一のことを考え、社長が名を伏せている株式会社日和迷宮組。そこの社長は、私の父なのよ」
「……」
日和迷宮組って、時価総額世界常にトップ5にいる世界的大企業じゃん……そこの、社長令嬢。
えっぐ……。
「とはいえ、既に私の父は亡くなり、今は私が社長として活躍しているのだけど」
「はにゃ?」
社長令嬢とかじゃなくて、社長だった。
「な、何でそんな人があんな高校に……っ」
何で世界的大企業の社長があそこの高校にいるのだ……まるで理解出来ない。もっと良いところあるでしょ。
「それは、すべて、貴方との関係を持つためよ」
「……僕と?」
「えぇ、そうよ。まず、私の両親についての話を。私の父はダンジョン探索の最中において、亡くなってしまったわ。それで、私の母は今、以前にも話した通り、難病で寝たきりの状態に。私たち三姉妹の目的はその母の難病を治すこと。そのために、お姉ちゃんがダンジョンに潜っているの。それで、母を治すため、私たちが動き出したわけだけど、その道筋を整えたのは───」
「そうっ!私っ!」
天音さんの後ろに立っていた輝夜さんが手を上げ、言葉を遮って急にその存在を主張してくる。
「私は未来が見えるの!神託が降ってくるのよ!」
「そういうことね」
だが、そんな輝夜さんを抑え込み、また、天音さんが言葉を続ける。
「私たちの母を治すのに、どう動くのが最善か……それが、貴方と近づくことだった。そのために、私は貴方の通っている高校に行った。貴方が配信者として活動しているから、お姉ちゃんも配信活動を始めた。すべては貴方との関係を持つためのこと」
「お、おぉ……」
えっ?そこまでの御仁じゃないよ?僕は……多分。
別に、今の日本最強とかを頼った方が早いような気もするけどぉ。
というか、日和迷宮組ならそれで十分なんじゃ……駄目な、理由があったのかな?
「ごめんなさい。これまで、私が貴方と仲良くしていたのは下心あってのことだったわ」
「……???」
何て疑問を抱いていた僕は、そんな最中で告げられた天音さんの言葉を聞き、頭にはてなを浮かべる。
貴方と、仲良くしていた???
そんな、素振りあったかな?
天音さん、時折、挨拶の言葉を口にしてくるだけだったよね……?
「って、うん?もしかして、毎回、僕と席が同じだったのは……」
「こっちの手回しよ」
「はぇー」
クラスの席替えで陰謀が渦巻いていたとは……誰も、想定出来ないでしょ。僕もびっくりだ。
「これが、私の家のすべてよ……何か、わからないところがあったかしら?」
「いや、特にはない、と思いますけど……」
十分にお腹いっぱいで、これから何か、胃の中に入れる気も……。
「って、あぁ、そうでした。結局のところ、神社本庁の総裁との繋がりとかはあるんですか?天音家自体に何かあったり?」
まだ、入れなきゃいけないものがあったわ。
凄まじい家だということはわかった。
とはいえ、それでも、神社本庁の総裁に会って、どうこう……って、ねぇ?
「い、いや……私の御家を遡っていくと、大覚寺統に行きつくところが……中々に面倒な時代から話始めなきゃいけなくなってしまうのですが。」
「あっ、うん。何も聞かなかったことにします」
これでも僕は歴史を重んじる神社のせがれ。
突っ込んではいけない話題についてはかなり敏感だった……というか、想像以上の名家だったんですけど。うそでしょ?いや、つか……これ、普通にあれでは?。
別れたと言っても、結局のところ合一しているのだから……。
「いや、考えないでおこ」
日本の歴史は長い。
割と遡れば……という話は多いよね。特別扱いはしないでおこ。
「そうしてくれると」
「うん、教えてくれてありがとうございます」
僕は何もなかったことにし、とりあえずの笑顔を浮かべておくのだった。
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