首相官邸

 首相官邸。

 護衛として多くの自衛隊が詰めかける中で行われている首相会見の真っ最中に、突如として起きた大事件を受け、その首相官邸でも、大きな混乱が広がっていた。


「……今はこういう状況なのね」


 その様子はしっかりとすべて、配信されていた。

 天音家から首相官邸の方に向かっている僕はその配信を確認し、現在の状況を正確に把握しているような最中だった。


「混乱模様はどう?」


「まぁまぁ酷いですよ。自衛隊の人たちもかなり強いですが……天空より降ってきている魔物には歯が立っていないようです」


「そう……なら、急がないとね」


「えぇ……甘夏は大丈夫?」


 時雨さんの言葉に頷く僕はその後、自分の視線を己の腕の中にいる甘夏の方へと送る。

 僕と時雨さんの移動に甘夏が着いてこれるはずも無い。今、彼女は僕がお姫様抱っこのような形で運んでいた。


「う、うん。大丈夫だよ」


「それなら良かった」


 僕は甘夏の答えにほっとしながら、その速度を上げる。

 首相官邸までは、あと少しだった。


「見えた……」


 更に加速してからしばし。

 僕たちはようやく首相官邸にまでやってきていた。


「っぶないっ!」


 僕はここに来るまでで拾っていた小石を一つ。

 それを握り、僕は首相官邸の天井を突き破り、手を突っ込んでいた一体の巨人の数多に向かって小石を投擲。

 

「おぁぁぁぁぁあああああああああああああ」


 それにより、巨人は頭を消滅。

 そして、そのままゆっくりと巨人は地面に倒れていく。


「入りやすくなりましたね」


 巨人が倒れた中、ただ天井がなくなっただけの首相官邸へと僕は甘夏を連れて入り、その後に時雨さんも続いていく。


「……死傷者はゼロ、良かった」


 首相官邸に入るなりすぐ、僕は直ちに状況を確認。

 内部はかなり荒れ果てていたが、自衛隊のおかげが何とかまだ死傷者は出ていない。全員、無事なようだった。

 首相並びに記者たちの姿もある。


「ただ、と」


 状況は既に刻一刻と変わっている。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


「ガァァァァァァアアアアアアアアア」


「うぅぅぅぅぅぅぅううううううううう」


 第二陣として、僕たちが通ってきた天井の穴から多くの魔物が降ってき始めていた。


「甘夏。ここをまずは死守する。自衛隊の人に自分たちのことを話してきて。僕も、時雨さんも戦闘へとすぐに入るから。話し合いが終わったら、甘夏もすぐに参戦して」


「わ、わかったわっ!」


 僕の言葉に甘夏が頷いたのを見て、彼女のことを解放する。

 ちょうどそのタイミングで、魔物が動き、自衛隊の人たちも動き始める。


「……手札ないなぁ、僕」


 自分の手元にある魔物なんて十体程度。

 具現領域も天音家の方で稼働済み。具現領域は二回も同時に使うことが出来ない。

 既に自分はもう肉弾戦闘くらいしか出来ないと言っていい。

 それでも、僕はそこそこ戦えるけどね……ねっ!


「せいっ!」

 

 僕はがれきの山が積みあがっている首相官邸内で、この内部へと入ってきた魔物たちを徹底的に叩き潰していく。


「ひ、ひぃぃい!?助けてくれっ!」


 ただ、それでも数が多く、護衛としていた自衛隊の人たちの数があったとしても、全ての人を守り切るには数が足らず、魔物に襲われそうになって悲鳴を上げるような人も出始めてきていた。

 それに対して、自衛隊の人たちも駆けつけ、無力な人たちを一か所に集め始めている。


「……もう、遠すぎでしょ」


「ひぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいい!?」


 ただ、人の集団から外れ、一人で孤立して大きな悲鳴をあげているような人もいた。

 その人を助けようと、僕はこの場を駆け抜ける。

 僕は悲鳴を上げていた人の前に立ち、その人を攻撃しようとしていた魔物の首を刎ね飛ばすために自分の手刀を振り下ろそうとする。


「……おや?貴方は以前、僕のことを非難していた人じゃないですか?」

 

 だが、僕はその途中で手を止める。


「えっ……あっ」


 その理由は、自分の目の前にいた人がテレビで自分を詐欺師だと言って大きく批難していたような人だったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る