ゲル総理
自分の前にいる人物。
それはずいぶんと偉そうな口調で、僕のことを詐欺師だの何だの言っていたレポーターの人だった。
「い、いや……ち、ちがぁぁぁぁぁああああああああ!?」
僕がそれに驚き、手を止めていた中で、その男は魔物に体を触れられる。
そんな魔物の様子としては、その狂暴な歯が生えそろう口より舌を伸ばし、男の体の何処が上手いかを探っているかのようなだった。
「ふふっ」
それを前にしていたずらっぽく笑みを浮かべた後、その男へと襲っていた魔物を殺し、そのままそいつの服を手で掴む。
「ひ、ひっ!?」
「そんな怯えなくとも、ちゃんと助けるよ。僕はちゃんと人の味方だからね……でも、少し、手荒になるくらい許してね?」
僕は一切の容赦などなく、服を掴んだ男を粗雑にぶん投げる。
その先は自衛隊に囲まれている多くの人たちがいる地点だ。
「さて、と……くだらないことをしていないで、さっさと制圧するか」
第三陣が来る様子は今のところない。
さっさと第二陣としてやってきた魔物たちを殲滅しないとね……時雨さんだけじゃなく、甘夏も頑張っているところだし。
僕は自分の手札がほとんどない中、せっせと一体、一体魔物を倒していく。
「これで最後」
辛うじて残っていた天井にへばりつき、超音波で攻撃を仕掛けてきていた魔物に向かって石を投げ、無事に殺すことが出来た僕はほっと一息をつく。
これで一旦は何とかなった。
それを確認次第、僕は首相の元へと近づいていく。
「貴方が今の日本の首相である
「あ、あぁ……君は、新しくSランク冒険者になった方でしたね?」
「えぇ、そうです」
「まずは、Sランク冒険者への承認に対して、祝福を申し上げたいわけでございます」
「ありがとうございます。ですが、緊急時です。そういうやり取りはまた今度にしましょう」
「えぇ……そうですね」
「それで?現状はどうなっていますか?その他のSランク冒険者たちは?」
「はい。えー、私の方から既に協力の要請をお願いし、避難誘導を行ってもらっているところです。空より来る魔物たちが精強である、という話は既に聞き及んでおります。ただ、それと同じようにして、天空より降ってきた魔物たちは直ちに行動を行うのではなく、降りた地で行動を停止しているという報告も受けております。一旦、それらの魔物は放置し、別の事案へと対処する方針を先ほど、決定したところです」
……そうなの?初耳なんだが。
でも、そうであるなら都合がいい。
これでより、多くの時間が出来る。
「えぇ、それが良いでしょう。まずは、避難が先です」
一旦は避難に集中しよう。
「私としては、まず、カンヌシ様に地方の、ことをお願いしたい。都市部の方には多くの冒険者がいますが、地方につきましてはそうでありません」
「……わかりました。今より、展開している魔物を地方の方に寄らせます。それと、自分のことはカンヌシではなく、千夜と」
カンヌシ様は流石にちょっと強そうが過ぎる。
明らかに過分だ。
なんてことを考えながら、僕は自分が開放している魔物たちの動きを変えさせる。
「また、此度の一時は日本だけではなく、世界中で起きている事案となります」
「……っ」
「そして、現在、我が国は世界各国からの支援を求められている状況にあります。自国が、第一。それは変わりません。ですが、アメリカを始め、我が国の同盟国。世界中のありとあらゆる人々。それらの人を忘れることも出来ません。出来るだけ、迅速な行動をお願いしたい、ところであります。さしあたっては、今回の避難誘導は冒険者の皆様方のやり方で構いません」
「……よろしいので?」
冒険者としてのやり方、なんていうそんな大層なものはない。
別に訓練を受けたわけではない冒険者の仕事ぶりは割と雑。早く帰りたいが先行しているときの方が多い……つまり、死者が出てもいいからさっさと行え、というのが総理の指示になるわけだが。
「四の五の、言っていられるような状況でもありません。世界各国が沈めば、多くの物資を海外に頼っている我が国も大きな損害を被ることになります。食料の、問題が大きいですから。世界が同時に沈む。そんな、想定はしておりません」
「わかりました。それでは、出来るだけ迅速に。可及的速やかに状況の鎮静化に勤めてまいります」
「よろしく頼みます」
「それでは、自分は別のところに。首相たちは自衛隊たちの指示に従っての避難、ということでよろしいですよね?」
「あぁ……ここの近くにも避難所がありますから」
「良かったです。それでは自分はこれで」
「えぇ……ご武運を」
「ありがとうございます……時雨さん、甘夏、行きますよ」
知りたいことは知れた。
意思疎通は出来た。
十分であると感じた僕は時雨さんと甘夏と共に、夏瑠総理と別れ、首相官邸を後にするのだった。
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