ワーム

 首相官邸を後にした後、僕は時雨さんと甘夏の二人と別れ、たった一人で東京を駆け抜けていた。

 既に東京からは完全に、自分の魔物たちを移動させている。

 夏瑠総理に従って、完全な地方重視へと切り替えさせている……つまり、ここ東京では冒険者の一人一人が何とかするしかない。


『千夜。そこのビルを曲がった先にいるわ』


「了解」


 そんな中で、僕は天音さんと通話を繋ぎ、大企業の社長として数多くの情報が集まってくる立場でもって教えてくれるSランク冒険者である自分が動くべき事案を片付けていった。


「あいつか」


 天音さんの言う通りに従って移動してきた僕は自分が対処すべき事案をしっかりと見つける。

 自分の視線の先にあるのは、多くの人が避難してきている小学校を襲おうとしている道路を這いずり蠢いている巨大ワームだった。


「うぅぅぅぅぅう」


 僕はワームの前で何とか、その動きを止めようと奮起していた冒険者の前に立ち、付喪神の刀を構える。


「助太刀に入ります。あとはお任せを」


 そして、冒険者たちに対して一方的に言葉を言い切った僕は地面を蹴り、ワームに向かって全速力で迫っていく。

 刀を逆手に持ち替えた僕はワームのすぐ目の前で跳躍。

 ちょうど、ワームのすぐ上にまで飛んだ僕はここまでやってきた勢いのままにワームの長い全長を一気に駆け抜ける。


「───ぅう」


 僕の持つ刀の刃渡りの長さは変幻自在。

 極端までに刃渡りが長くなった刀は確実に、ワームの全身を縦に一刀両断した。


「ワームは倒したよ」


『了解。ありがとう』


 僕は簡潔に天音さんへと報告を行った後、小学校の前で戦っていた冒険者に近づいていく。

 それにしても、あのワームの対処に当たっていたのはこの人、一人だけなのか。よく、持ちこたえたものだね……パッと見る限り、実力は黄野さんよりも少し上くらいだと思うんだけど。

 ずいぶんと、死力を尽くしてくれたみたいだ。


「冒険者の方」


「か、カンヌシさん……」


「ここに来るまでで割と多くの魔物を排除し、かなり周りを安全にしています。今のうちに、日和迷宮組の避難所の方へと移動してください。小学校ではこの事態に対して、どうすることも出来ません」


 日和迷宮組は現在、全国津々浦々に数多くある巨大で頑丈なシェルターを避難所として開放している。

 天音さんはどうやら、輝夜さんの神託とかは一切抜きにして、ダンジョンより魔物が溢れてくる可能性も憂慮。

 地下にありとあらゆる有事に対応するためとして、今回のような一件に対応できる準備もしていた。

 そんな天音さんが用意したシェルターに移動するよう、周りに声をかけていくのも僕の仕事のうちだった。


「は、はい」


「それじゃあ、僕はもう行くから。あとのところは任せたよ」


 いうべきことを言い終えた僕はそのままこの場を去ろうとする……。


「あ、あのっ!少し、良いですかっ!?」


「……ん?」


 のだが、それを自分が話しかけていた冒険者の人に呼び止められ、僕は足を止める。


「こ、こんな時間のない時に言うべきじゃないかもしれませんが……一人の人間として、すみません。ここで、一つ。謝罪させてください。俺は、ここまでして、色々な人の為に動いてくれている貴方を……詐欺師であると、勝手に断じてしまっていました……本当に、申し訳ありません」


 そして、その冒険者の人は深々と僕の方へと頭を下げてきていた。


「んっ、別に気にしなくていいから」


 敬語よりも、砕けた口調の方が怒っていない雰囲気出るよね?


「その代わり、小学校に居る人を無事に届けてね」


 特に怒っているわけでもない僕は冒険者の人に気にしないように話し、そのまま小学校にいる人たちのことを任せてしまう。


「は、はいっ!自分は誘導系のスキルを持っていますから!一人でもここから近い地下シェルターにまで無事に避難誘導してみせますっ!カンヌシさんも、どうか、頑張ってください」


「うん、ありがとう。それじゃあ、お願いねっ」


 そして、僕は頼りになる冒険者の人に諸々を託し、その場を離れる。


「さぁ、天音さん。僕は次に何をすればいいですか?」


『……えぇ、もちろん。次に貴方が向かってほしいのは』

 

 僕も負けないようにしないとね。

 天音さんから新しい指示を受けた僕はすぐに、それを達成するために動いていった。

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