勇者
牧野蓮夜。
それは、現代において、日本最強。すなわち、世界最強の冒険者と目されているSランク冒険者であり、今の配信ブームの火付け役にもなった、勇者の二つ名を持つ男である。
この人の活躍は目覚ましく、ダンジョンバブル初期の時代、生きるために冒険者となった方々が加齢ゆえに戦えなくなると共に裕福になった時代で若者が命の危険のあるダンジョンに潜ろうとしなくなったことで人材不足が叫ばれ出した頃。
圧倒的な力でもって、十代の頃から魔物を狩り尽くすことでダンジョンより得られる資源が少なくなった時代を支えるばかりか、配信活動を始めることで若者たちがダンジョンに潜りたいと思うような時代を作りだした怪物である。
たった一人で日本を支えた男、それこそが勇者の二つ名を持つ牧野蓮夜だ。
「初めまして」
そんな人を前にして、僕も挨拶の言葉を返す。
「あぁ、初めましてだ」
「それで、勇者と謳われる人が一体、僕に何の用でしょうか?」
「私が君に話しかけたのはそこまで不思議なことかい?新たなるSランク冒険者……それに注目しないわけがないだろう?」
僕がSランク冒険者になる前、そのランクに認められていた日本人は三人。
目の前にいる牧野さん。
それと、牧野さんと同じパーティーの垣根雫さん。
既にご年配となりながらもSランクに認定され続けている黎明期より存在し続ける王野響。
この三人だけ……その他、海外にも三人。これだけがSランク冒険者だった。
ちなみに、冒険者ギルドは元々日本の機関だったが、今では国連にも認められている国際的な機関となっている。
「まぁ、そうですね」
新しいSランク冒険者。
それに注目が集まるのはある意味、自然なことかもしれない。
「とはいえ、何故、ダンジョン待ち構えるようなことを?」
ただ、その上で理解出来ないのは会いに来る場所はわざわざダンジョンの中である必要などないだろう、ということ。しかも、ここはド深層だし。
コメント欄
・な、何でこんなところに蓮夜さんが……?
・最強キター!
・え、えぇ……ここで?
・なんでこんなところで会いに来ているんだよ、もうちょっと安全なところとかあるでしょ
その困惑ぶりは、今の配信を見ている視聴者たちも同じものを抱えていた。
「こちらの方が都合がいいと思ってね……いや、これ、あれだね。今のところ、僕はあり得ないくらい怪しい奴だね」
「……まぁ」
「別に大したことじゃないんだ。本当に挨拶をしに来た、それだけなんだよ。ただ、君の背後にいる者たちが厄介でね。ちょっと、神社関連すべてに触れたくなくてね、僕は。それに、時雨さんのところの家にもちょっと……」
「心外」
「ははっ、僕の微妙な立場を見ればわかるだろう?」
無表情のまま、不満の声を上げる時雨さんに対し、牧野さんは苦笑交じりで答える。
コメント欄
・これ、俺らも聞いていいやつ?
・全世界放送されているんだけど
・家……?
・ヤバげな話してて草。
「こうして、実際に会ってみればわかる。君の実力は本物で、これまでの配信での出来事も本当なんだろうね。にわかには、信じがたい君の過去配信も」
「えぇ、ウソ偽りなんて特にないですよ?そんなことをする必要もないですし」
「本気でそう思っていそうな所が怖いところではあるんだけど……こうして、話してみて悪い人でもなさそうだから安堵しているよ。同じSランク冒険者として、これからよろしく」
何処までも怪しそうな……でも、ちゃんと敵意はなさそうな牧野さんは笑みと共に僕の方へと握手の為の手を差し出してくる。
「えぇ、よろしくお願いします」
その手を僕はしっかりと握り返す……うーん、手を握るだけでわかる。めちゃくちゃ強いぞ?この人。
「邪魔してしまったすまないね。僕は先に、地上の方へと戻るから……二人はこの先に進んでいって。あっ、335階層はボス部屋じゃないけど、マーカーを置ける場所があるから、そこに行くと良い」
「そうなんですか?ありがとうございます」
「あぁ、それじゃあ、応援しているよ。時雨さんがSランク冒険者になるのもね……それと、カメラの向こう側にいる視聴者のみんなはカンヌシさんを詐欺師扱いしないように。それでは」
333階層に到達すると共に、そこで待ち構えていた牧野さんは、こちらへとアドバイスを残した後に332階層へと上がる階段を登っていくのだった。
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前話で記載していた通りの特別SSをサポーター限定近況ノートにて、公開させていだたきました。
タイトルは『恋バナ』。
千夜、有馬、海馬の三人が恋バナに花を咲かし、千夜くんが赤裸々に自分の恋愛事情やタイプ、性癖を話す……いつもよりはちょっとはっちゃけたストーリーです。
興味があれば、ぜひ。
なお、サポーターとは?限定近況ノートとは?となられている人は、下記のURLより、カクヨム運営様からの説明を見ていただけると幸いです。
また、本日の方も出来れば、星やレビュー等をいただけると幸いです。
レビューに関しては、読書感想文などというような堅苦しいものではなく、一言で構いません。レビューで露出が増えるんです。どうか、レビューをいただけたら幸いです(真面目に文章考えるの疲れるわ。敬語あっとる?)
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