敬語

 天音家の三姉妹の母親である静香さんはこれから、回復にリハビリと多くのことをこなしていくことになる。

 だけど、そこまでの面倒を僕が見る必要もない。

 僕はもう既に天音家から自分の神社の方に帰るための準備を始めていた。


「これはこっちでいい?」


「えぇ、大丈夫です。お願いします」


 なんやかんやで僕がここに住んでいる中で、自分の物もかなりの量になっている。

 引っ越しには、自分の魔物たちを活用するのではなく、普通の引っ越し業者を活用することに決めていた。


「いやー、本当に手伝ってくれてありがとうございます。一人でやるとかなり時間かかりそうで、困っていたんですよ」


 そのための荷作りだが、僕は今、荷作りを早く終わらせるために時雨さんの力を借りていた。


「これくらい当然。私たちは返しきれない恩を受けた」


「一人の人間として当然のことをしたまでですので、気にしなくていいですよ?」


「なら、私が恩に対して報いるのは一人の人間として当たり前の当然のこと。だから、気にしない」


「んっ。確かにそうですね。ここは素直にありがとうと言って、頼らせてもらいます」


「うん。それでいい」


 僕の言葉に対し、時雨さんは満足げに頷く。


「千夜」


 そして、そのまま彼女は荷作りをしていた手を止めて、僕の方へと視線を真っすぐに送りながら疑問の声を投げかけてくる。


「何でしょう?」


「敬語。何で敬語なの?」


 その時雨さんが口にしたのは僕の敬語についての話だった。


「えっ……?いや、これは基本的に僕が敬語で話しているからで、特に深い理由などはないものですが」


「九尾と戦っているときは敬語じゃなかった。甘夏と話しているときも敬語じゃない」


「……あー」


 確かに、九尾と戦っているときは敬語が外れていたね。

 敬語とか、そんな時間がかかるような言葉を使っているような余裕はなかったから……甘夏に関しては幼馴染だしね。


「私とは、仲良くない?」


「……いや、そんなことはないですけど。一緒にダンジョンを潜り、九尾まで倒した中ですし」


 あそこにマーカーを個人で建てたこともあって、もう二度、九尾と戦わずに済みそうだしね。

 今度は九尾の方を調伏したいな……調伏した後の魔物は元よりも明らかに弱くなっているけど。


「なら、敬語要らない」


「まぁ……」

 

 敬語を使っているのに、特に深い理由はない。

 本当に何となく敬語を使っているだけなのだ。


「じゃあ、そうしようかな」


「むふー」


 僕は時雨さんの言葉に従い、敬語を使わずに話すことを今ここで告げるのだった……時雨さんも満足そうだし、これで良かったかな?

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