静香

 散々と天音家の三姉妹がお母さんとの再会に涙を流し、疲れ果てて眠ってしまった後。


「貴方が、千夜さんですか」


 僕は今もなお、起きている天音家の三姉妹のお母さんに呼ばれ、その病室へと再び足を踏み入れていた。


「えぇ、自分がそうです。こうして言葉を交わすのは初めてですね。僕は神々廻千夜です」


「これはご丁寧にありがとうございます。私は天音静香にございます」

 

 三姉妹の母親である天音静香。

 その姿はまだ見れるものになっていた。

 やせ細った体に通されている何本もの管。

 完全に抜け落ちた髪。

 時折痙攣する手足。

 かさかさの口元から漏れている泡。

 僕が初めて会った時は酷い姿だったが、自分が代償をその身から離した後にその体へと力も一緒に分け与えたことで、めちゃくちゃ不健康な人くらいには回復出来ていた。


「……どうやって、という野暮なことはお聞きいたしません。ただ、ただひとえの感謝をお伝えさせてください」


「えぇ、それをお受け取りいたします……ですが、だからと言って何もいりません。僕はただ、貴女の娘さんからの願いを聞き入れただけですから。娘さんにも精一杯の感謝を伝えてあげてください」


 天音家は結構大きな家だからね。

 うちの神社の在り方上、静香さんからここで何かを頂くようなことはない。


「えぇ、もちろんです……本当に、この子たちは頑張ってくれました」


 静香さんは己の周りで眠っている三姉妹を見ながら、優しそうな笑みを浮かべる。


「本当に……私の愚かさをこの子たちに救ってもらいました」


 ただ、その表情の中には、確かな苦痛と、罪悪感の念も込められていた。


「結果良ければすべて良し、ですよ。ちゃんとお母さんが子供を愛し、正しい教育をしてきたからこそ、彼女たちは治ってほしいと、その願いより動き続けたのです。何があろうと、貴女は立派なお母さんですよ」


「ふふっ、実に嬉しいことを言ってくれますね」


「一応、神主ですので」


 人とのふれあいが仕事みたいなところもあるからね。神主は。

 神社に訪れた者たちの苦労を少しでも和らいであげられれば、ね。


「そんなあなたがいる神社でしたら、きっと、多くの人からの指示を受けているのでしょうね」


「まったくもって繁盛していないですけどね……ハハハ」


「あら?そうなのですか?……でしたら、うちの娘を嫁にとってみては如何?色々とお力になれると思いますよ?それに、彼女たちとて、嫌がらないと思いますが」


「アハハ、ご冗談を」


 静香さんの冗談に対して、僕は軽い愛想笑いを返して、話を占めるのだった。


「……ふふふ」

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