「まず、僕は特に気にしていないよ。これまで、輝夜さんと話していて、嫌な気持ちになったことなんてないよ。だから、そんなことを心配する必要はないよ」


 僕がされて嫌なことなんて、ただの人間一人風情で出来るようなことじゃないしね。


「で、でも……」


「僕は気にしていない。なら、そこで話は終わりなんだよ?輝夜さんに振り回されるのも悪い者じゃないからね。とはいえ、自分以外の人に対する接し方について


「わ、私なんかに振り回されるなんて……」


「なんか、何ていう言い方をする必要はないよ」


「で、でも……私のせいで、お母さんは」


「違うよ。お母さんが代償に苦しんだのは輝夜さんのせいじゃない」


 僕は優しく、それでも、はっきりと輝夜さんのせいでお母さんが代償に苦しんだという言葉を否定する。


「お母さんが代償を受けたのは輝夜さんに対する愛が理由だよ」


「あ、あい……?」


「そう。君はね、死産だったんだよ。それでも、君のお母さんは神に願い、祈り、娘を生かして欲しいと願った。そして、その願いは幸か不幸か叶ってしまった。君の持っている神託は、君がその生を確かなものにする過程において、神様と触れ合ったことによって得られた偶然の産物と言っていい」


 死した者を生き返らせる。

 それは許されない禁忌だ。

 それを行った代償は重く、きつく、死ぬまで解放されることはない───否、その代償は死してなお、解放されることはない。死んだ後も、一族に残り続け、その代償を支払い続けるだろう。

 神に願うというのはそういうことだ。

 それでも、輝夜さんは、そして、天音家は神様から愛されていたのだろう。巡り巡って、努力の果てに僕の元へとたどり着き、その代償をお母さんの身から離すことが出来た。


「君は、お母さんに請い願われて今、呼吸しているんだよ。君はお母さんに愛されているんだ」


「……ッ!」


「だから、大丈夫。輝夜にお母さんと顔を合わせる権利がないなんてことは絶対にないから」


 僕は抱きしめていた輝夜さんの体を離し、そのまま彼女と視線を合わせながらゆっくりと頭を撫でる。安心できるように。


「だから、早くお母さんにその顔を見せに行ってあげて。どんな代償を受けたとしても、生きて欲しいと願った……その愛娘の顔を早く」


 そして、輝夜さんの背中をゆっくりと押してあげる。


「……おかあさぁぁぁぁぁぁああああああああああああんっ!」


 それを受け、輝夜さんは内側に抱えていたものが爆発したように泣き声を上げ、僕の元を離れ、その母親の元に走っていくのだった。

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