祈祷

 代償、そう、まさに代償なのだ。

 天音三姉妹のお母さんが痩せこけ、眠りについたのはまさしくそれが理由だった。

 優れたる現代の医療をもってしても、そのお母さんを治せるはずがない。

 治せるのは僕のような、神職の人間だろう。


「お母さんっ!?お母さんっ!?」


「良かった、良かった……本当に、良かった」


 天音三姉妹のお母さんが眠っていた病室。

 そこから聞こえてくるのは彼女たちの歓喜の声である。

 僕はしっかりと、彼女たちのお母さんのことを治すことが出来た。


「……何とかなって良かった」


 それもその、僕と時雨さんが二人で取ってきた九尾がもたらす神の力……それを宿す薬草のおかげだ。

 僕はあれを最大限に活用し、代々伝わる祈祷でもって、天音三姉妹のお母さんをしっかりと治したのだ。

 大変だったけどね。

 

「……ねぇ」


 僕が達成感と共に、天音三姉妹のお母さんを治せたことに安堵していた中で。


「ん?」


 いつの間にか自分の隣にいた三姉妹の末の妹である輝夜さんが僕の方へと話しかけてくる。


「……あー、どうしたんですか?輝夜さん。お母さんの元に行かなくていいんですか?」


 せっかく治ったお母さんの元ではなく、何故、自分の元に来ているのか。

 空気を読んで、病室から離れた場所にいる僕の元へとやってきた輝夜さんに対して僕は疑問の声を投げかける。


「お母さんが、床についていた理由って、私、だよね?」


 そんな、僕の言葉に対する輝夜さんの答えは少し、本題とはズレていて、それでも、言いたいことはすべて伝わってきた。


「……っ」


「神託。神様からの声を聞く力……これが、駄目なんだと思うんだ。神様からの声を聞く。その力に、何の代償もないはずがない。千夜が、お母さんの病を治す儀式の中で、代償という言葉を使っていた……お母さんは病気じゃない。私の持っている力の、代償のせいだったんでしょ?」


 僕が息を呑んでいる中で。


「私は……駄目な子だった。神託、っていう便利な力があって。強い時雨お姉ちゃんや、賢い水樹お姉ちゃんに並べる。役に立っているって、そんなこと、勝手に舞い上がって……でも、私のせいでお母さんは。それに、私はそんな呪われた力を使いながら、……ずっと、身勝手にふるまっちゃっていた。千夜、にも、何も聞かずに、神託で大丈夫だったから、っていう雑な理由で勝手に色々と話を進めちゃってて……」


 輝夜さんは僕の前で、涙ながらに懺悔の言葉を続ける。


「大丈夫だよ」


 そんな輝夜に対して。


「……っ」


「君がそんな思いつめる必要はないよ」


 僕はゆっくりと輝夜のことを抱きしめながら、その耳元に向かって声をかける。

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