冒険者ギルド
僕がダンジョンで配信を始めてから、どれくらいの時間が経っただろうか?
中学生の頃から始めているので、既に三年以上は活動している。
それなのにも関わらず、僕の配信活動はまるっきり話題になっていなかった。視聴者数は多くて二人。基本はゼロ。
今日はめずらしく一人だけ視聴者が来てくれたと思ったら、すぐに消えていってしまった。
「はぁ……」
僕はあんまりな現状を前にため息を吐きながら、冒険者ギルドの中へと入っていく。
冒険者ギルド。
そこはダンジョンに潜る冒険者をサポートする組合である。
ちなみに、この組織の一番最初の名称はダンジョン攻略協同組合だったのだが、ここ最近のラノベの影響で冒険者ギルドへと変わってしまっている。
「いらっしゃい。千夜くん。今日の配信活動は終わった?」
そんな冒険者ギルドへとやってきた僕へと声をかけてくれるのは、ギルドで働く受付嬢である
「えぇ、終わりましたよ」
年齢としてはまだ二十歳(自称)でアラサーじゃないと言い張っている、既に四年生大学を卒業して働き始めてそこそこ経っている桃山さんの言葉に僕は頷きながら、彼女の方へと近づいていく。
自分が訪れた時間帯はまだ朝の早い七時。
冒険者ギルドが開けられてすぐという時間帯であるために、まだ自分以外には誰もいなかった。
しばらくの間、僕と桃山さんの二人きりの時間だ。職員さんの方も、この時間帯だと桃山さん一人だけになるからね。
正直に言うと、すっごい美人さんである桃山さんと二人きりで過ごせるこの時間帯はちょっとしたご褒美である。
「これが今日の成果です」
かなり広々とした冒険者ギルドを突っ切った僕は桃山さんのいる受付のカウンターの前へと立ち、カバンの中から今回の探索の中で得られた多くの魔石を広げる
「今日も魔石だけの回収ね」
「そうです」
僕はそこまで大きなカバンを持ってダンジョンに行っているわけじゃない。
異空間に収納する!なんていう二次元じゃよく見る便利能力も、アイテムもなくて物理的に持ち運ぶしかない僕は、比較的に軽くて何にもで使える魔石を基本的には回収していた。
「はい、要らないですね。寄付という形でお願いします」
「わかったわ……それにしても、多いわねぇ。これだけ集めるの大変だったんじゃないの?」
「いえ、そんなこともないですよ」
「……そこらへんは流石、千夜くんと言ったところかしら?それで、それだけの実力がある千夜くんは一体いつ、昇級試験を受けてくれるのかしら?そろそろ試験無しでもなることの出来るCランクから、上のランクに行ってもらいたいのだけど」
「いや、それは面倒なのでちょっと……」
試験とか、ちょっとその響きだけで嫌だ。
「それに、試験を受けたり、なんなりというお金もないですし」
僕はダンジョンから採取してきたものはすべて、寄付という形で冒険者ギルドに渡しているため、万年金欠。
ちょっとこの街から離れた場所でやる試験を受けるとかは厳しい、みたいなところもあったり、なかったり、みたいな感じ。
「ねぇ、やっぱりちゃんと売りなさい?貴方が採取してきた魔石。お金は大事よ?」
「無理ですねぇ……一応、そこはしっかりと。こだわりなので」
僕はこの街に古くからある神社を受け継ぐ神主の一族に生まれている。
自分の使う力は神様よりうけたもうた力、ということになっており、その力で私利私欲を満たすことは認められていない。
そのために、僕が力を用いてダンジョンで戦い、それで得られた物で金銭という私利私欲を求めることはちょっとね?っていう感じだった。
えっ?それじゃあ、ダンジョン配信もダメじゃないか、って?
いや、あくまで配信は僕という個人を目的にみんなが見に来ているだろうから、問題ないという論理なんだよ。これが本当の天才による論理だ。
「子供がなんでそんな厄介なこだわりを抱えているのよ」
「宗教的なものなので」
「宗教的……あそこの神社の子だもんね」
「そうです」
「……ままならないわねぇ」
「それでも、僕は腐らずやりますよ。配信活動等もやっていますし、いつかはきっと芽吹いてくれます。配信で得た金なら、自分のものにするつもりですよ」
「前もそんなこと言っていたわね。どうなの?その配信活動の様子は」
「……ははは」
そんなこと聞かれても、乾いた笑みしか出てこないよね。
「私としては貴方のチャンネルが伸びないの意味わからないのだけど……」
「へへ」
乾いた笑みは深まるばかり。
「ちょっと今から、なんで貴方の配信が伸びないのか、私と考えないかしら?絶対に、ちゃんとやれば伸びると思うのよ」
……そ、それはちょっと恥ずかしくない?
「いや、それはちょっと……自分はこれから学校なので」
毎日5時から6時半くらいまでダンジョンで配信し、その後に冒険者ギルドへと来てから高校に行くというのを日々のルーティーンにしている。
恥ずかしいとかもあるけど、純粋に時間はない。
「学校から帰ったら?」
「今度は神社の掃除とか……色々と」
神主として、しっかりと仕事もこなさないといけない。
やっぱり、時間はない。
「やっぱり、大変ねぇー」
桃山さんも、僕に仕事を振ってくる人の一人だけど。
「じゃあ、いってらっしゃい。また今度、時間が見つかればやりましょ」
「……まぁ。それじゃあ、いってきますね」
「はーい、楽しんできてね」
……。
…………やっぱり、自分の配信を見られるのは恥ずかしくない?
そんな複雑な思いを持ちながら、僕はとりあえず高校に行くため、冒険者ギルドを後にするのだった。
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