幼馴染

 僕は現在、高校生。

 自分が通っている高校はそこそこの偏差値がある一番家から近い私立高校である日向高校だ。

 ここは高校建立の際に僕の曽祖父が地鎮祭をやったりと、昔から神社としての関係性が深く、入学できれば無条件で学費を無料にしてもらえるのだ。

 お金があまりないうちとしては非常に助かる話だった。


「おっはよーっ!千夜っ!」


 冒険者ギルドから日向高校へと向かうまでの道のりの中で、僕は自分の後ろから元気で明るい声をかけられる。


「んっ、おはよう」


 その言葉を受けて僕は足を止めて、後ろを振り返る。

 それで見えてくるのは僕と同じ高校の制服に身を包んだ一人の少女だった。

 肩まで伸びている金髪に染められた髪とピンク色のカラコンが入ったその出で立ちはまさに、ギャルそのもの……。


「昔はもっとおしとやかな感じだったんだけど」


 そんな少女の姿を見て、僕は思わず、ぼそりとと独り言を漏らす。


「ちょっと!」


「あだだっ!?」


 そんな僕は、一気に自分との距離を詰めてきたギャルの少女に頬を引っ張られ、悲鳴を上げる。


「私がせっかくイメチェンして綺麗になった姿を見て、何を不満そうにしているのよっ」


 ギャルの少女は僕の昔はもっと、という発言をどうやら、不愉快に思ったらしい。


「いたいっ、いたいっ、離してぇー」


「まったく、もぉー」


 ギャルの少女が自分の頬を引っ張っていた手を離してくれた時。

 その時には僕の頬は赤く張れ上がっていた。


「幼馴染だからって、調子に乗らないでほしいよね。勝手に昔の野暮ったい私と比べないでほしいわ」


「別に不満そうにしたわけじゃないけどぉ……」


 このギャルの少女、門崎かんざき甘夏あまなつは僕の幼馴染に当たる子だ。

 小学、中学とずっと一緒で、クラスまで一緒。甘夏の家は神社とも近く、親ぐるみでの交流もあった。

 そして、通っている高校も一緒でクラスも同じ。

 基本的には毎日、一緒に登校していた。


「私、小中学生の時とは違って、高校じゃモテモテなんだから!」


「……別に」


 小中学生の時もモテていたと思うけど……彼女の幼馴染で、一緒にいる機会の多かった僕は良く、甘夏が好きで付き合えるためのアドバイスが欲しい!って子の相談を聞いていた。


「そんな私とこうして、学校に登校出来ることをちゃんと誇りに思いなさいよ?」


「別に、無理までして僕と合わせなくていいんだよ?」


 甘夏はずっと一緒の友達だし、当然。

 こうして一緒に登校出来ることは嬉しいが、それでも、彼女の負担にまでなるつもりはない。別に嫌なら他の子と登校してもいいと思うが。

 甘夏ってば、友達も多いし。


「何言っているのよ、私は千夜のお母さんから、千夜を頼まれているのよ?千夜は色々と危なっかしいんだから、一人で何かしようとしちゃだめだよ?」


「何時の間に、そんな話をしていたのぉ?僕ってば、全然知らないし……それに、自分の両親が亡くなったのはかなり唐突で、そんなことを言い残せるタイミングもなかったと思うんだけど」


 自分があまりお金ないことにも通じるが、既に僕の両親は事故で亡くなっている。

 そのために、今の僕は一人暮らし、一人で神社の管理を行っている。

 だから、色々と大変なんだよね。


「……色々と約束しているのよ」


 なんてことを考える僕の隣で、甘夏は視線を下へと向けながら、ぼそりとそうつぶやく。


「何で僕がのけ者……」


 自分の母親と幼馴染の間で交わされている己の知らない約束、ってかなり怖くない


「それと、一人で何かしちゃ駄目、ってあまりにも過保護が過ぎるんだけど」


「何を言っているのかしら?千夜は一人で体育の授業の片づけをしようとしたときに失敗して、様々な用具の下敷きになって潰れていたじゃない。私、あれを見た時、心臓が飛び出るかと思ったんだから」


「……それ、もう数年以上前の話なんだけど。その時代の話を持ち出されて、しっかりしないと!って言われても、中々確かに!とはなりにくいよ」


「良いから私を頼るのよっ!」


「何と強引な」


 僕は甘夏と言葉を交わしながら、高校の方へと向かっていくのだった。

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