陰キャ

 日向高校、1年B組。

 それが僕と甘夏のクラスだ。


「おはよっー!」


 そこへと入るなり、僕と一緒に登校してきた甘夏は元気よく挨拶をクラスの中へと響かせていく。


「おー!おはよう」


「甘夏ちゃん、おはよー!」


 そんな真夏へと男女関係なく、クラスの陽キャたちが迷いなく彼女の方に声をかけていく。


「……」


 そんな甘夏含めの陽キャたちグループから逃げるようにクラスの中を駆け抜ける僕はそのまま、窓際の方にやってくる。


「ふぃー」

 

 そして、一番後ろで一番窓側の角っこにある自分の席の方にまでやってきた僕はそこで一息つく。


「また、門崎さんと学校に登校してきたのかしら?ずいぶんと、雰囲気は違いそうだけどね」


 そんな僕へと自分の隣の席で本を開き、座っていた少女。

 腰にまで伸びた黒髪に切れ目で鋭い黒目を持ったクールビューティーな雰囲気を持った少女、天音あまね水樹みずきさんが自分へと声をかけてくる。


「まぁね。僕たちは幼馴染で仲良いんだよ」


「……そうなの」


「うん、そうなの」


 天音さんと簡単に言葉を交わしている間の僕は自分が持ってきた荷物をまとめていく。


「まぁ、良いわ」


 僕が荷物をまとめ終えた後、天音さんは話しかけてきたのに一方的な形で会話を切り、その視線を本の方に戻していく。


「おはよう、千夜。今日も元気かい?」


「おはようですなぁ。神々廻殿」


 天音さんが読書に戻り、荷物をまとめ終えた僕が席へと座って一息ついたタイミングで自分の元へと二人の男子が近づいてくる。


「おはよう、海馬。有馬。僕は今日も元気だよ」


 一人は高身長で後ろでまとめられた長髪を持った鈴木海馬

 そして、もう一人は小太りで丸い眼鏡をかけた今野有馬。

 彼らは僕がクラスで一番仲の良い二人組である。

 そんな二人の名前は奇しくも最後が馬で一致しているのだ。面白いよね。


「アッハッハッハ!甘夏、それは流石にヤバない?」


「うん。確かにちょっとヤバかったかも……ちょっと流石に反省したよね」


「ちょー、おま、マジかー……流石に心配だよ、俺は。何かあれば、何時でも、Bランク冒険者である俺を頼ってくれよ?」


「おー」


「あー、うん。頼りにさせてもらうね」


 甘夏がクラスの陽キャグループと大きな声で楽し気に会話している中で。


「今日の授業ってなんだっけか?」


「ん?えーっと、あぁ……数学、現代文、物理、体育、世界史、化学だったかな?確か」


「おぉ、な、何と神々廻殿。本日は体育があると申すのですかな……な、何と残酷な世界ではござらんか」


「しかも、それが昼終わりなのもウザいなぁ……」


「まぁ、二人は運動とか苦手だもんね」


「お前はそうか、動けるのか」


「一応、僕は冒険者としても活動しているからね……むしろ、目立たないようにする方が大変かも」

 

 僕は海馬と有馬の二人と共に、声を潜めながら物理的にもクラスの端っこで言葉を交わしていった。

 ……。

 …………。

 うん、そうだね。

 僕は陰キャですよ?日向高校の名にふさわしいキラキラとした学校生活を送っている甘夏とは違い、僕はバチバチの日陰者である。

 別に海馬と有馬の二人に不満があるわけじゃないけどね?


「冒険者なぁ……それで、どうなん?調子は。冒険者としての」


「んー?芳しくないかなぁ」


 全然視聴者は増えてこない。


「うちのクラスにいるBランク冒険者らしい黄野悠希とかと比べたら、どっちが強いんだ……?」


「さぁ、どうだろう……?」


 僕が潜っているダンジョンは基本的にうちの神社内にある己以外に誰も来ないようなダンジョンとなっている。

 その他の冒険者との関わりがゼロと言ってしまっても、そこまで間違いではない僕としてはその疑問に対して首をかしげることしかできない。

 

「門崎殿も確か、ダンジョンに潜っているのでござろう?彼女と比べたらどうでござるか?神々廻殿は彼女と幼馴染でござろう?」


「ん?あぁ、それは間違いなく強いと思うよ」


 甘夏よりは遥かに強い自信がある。

 

「お前、実は結構強いのか?門崎さんって一応、Dランクで高校生冒険者としては圧倒的な上澄みだろう?それ以上というのか?」


「一応、Cランクではあるし」


「まじかいな」


「凄いでござるのなぁ……それよりも、某としては別のことが気になるでござる」


「ん?」


「幼馴染なのでしょう?恋愛フラグ等はあるでござるんか?」


「……」


 僕は有馬の言葉を受け、思わず口を閉ざして沈黙を作り出す。


「……ど、どうなんだろう?僕はちょっと相手の感情の機微に疎いから、そこらへん全然わからない。仲はいいと思うんだけど」

 

 そして、そのまま声をワントーンを落として、二人へと疑問の声を投げかける。


「……おいおい、彼女なんて出来たことのない俺に聞かないでくれよ」


「……でふでふ、某なんて女子の手を繋いだのは小学生の時きりでありますぞぉ。フェルマーの最終定理以上の難題でござる」


「……毎日、向こうから一緒に登校しよう!と、来てくれる幼馴染は脈ありかな?」


「……いや、それは脈あるよ」


「……ギャルって、誰にでも話しかけるじゃないでござるか?」


「……そうかもしれない」


「……ほな、脈なしかぁ」


 結論!

 陰キャに恋愛はわからねぇっ!!!ドンッ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る