最強陰キャ神主は底辺配信者!~誰も潜らないダンジョンで活動しているせいで注目を一切浴びなかった底辺陰キャ配信者が、人気配信者である幼馴染の美少女を助けたことで人気になるそうですよ?~

リヒト

ダンジョン

 今より三十年ほど前。

 ちょうど日本のバブルが弾け、極東の大国における一時代が終わろうとしていた時代。

 そんな時代の中で、突如として世界中にダンジョンが出現した。

 ダンジョンは複雑な造りをした迷宮になっており、その内部には危険で狂暴な魔物が多くいるものの、石油に代わるエネルギー源となる魔石やどんな性質も持つ万能鉱石などの貴重な資源を採取することが出来た。

  

 そんなダンジョンに呼応するかのように、人間も進化する。

 人類は各人それぞれのスキルを手にし、己の体を強くし、回復もさせる魔力を手にした。

 ダンジョンに潜り、狂暴な魔物と戦うための術を人類は手にしたのだ。

 これは世界のあり方を変えるモノであると共に、極東の大国における祝福だった。

 何処かの世界線において、氷河期世代と呼ばれることになる世代はこぞってそのダンジョンへと向かっていた。

 失われた世代になるはずだったその世代はダンジョンで巨万の富を手にして多くの内需を回すようになり、それへと答えるように日本企業はダンジョンに潜るための新開発を進めていった。


 バブルが終わり、不景気へと突入する直前で、日本という国家はダンジョンを中心とする戦闘集団へと生まれ変わったのだった。


 それより三十年。

 ダンジョンに潜るための新技術が次々と開発され、今や日本がダンジョン探索の為の先進技術の最前線を独走し、スマートフォンやネット関連サービス、人工知能をけん引するアメリカに並ぶ超大国として君臨している現代。

 日本の社会は完全にダンジョンを受け入れた。

 多くの者が命を懸けて戦うことになるダンジョンを受け入れ、そして、それはとうとう娯楽となった。

 ダンジョン配信。

 冒険者が気軽に記録を残せるように、と日本企業が開発した全自動追尾型のカメラを用いて、ネットの世界に自分の戦闘模様を乗せるダンジョン配信が今、日本では流行っていた。


「ハァァァッ!!!」


 そして、そんな流行に乗る少年がここにも一人。

 地味めで暗い雰囲気を持ってはいるもの、綺麗な顔立ちをしている黒髪紫目の少年がダンジョンの石畳を駆け抜ける。


「ぎしゃぁぁぁぁああああああああああああああああ!」


 そんな少年の前にいるのは一体の化け物。

 体長3mを超える巨体に、額から伸びる一つの長い角を持つ大蛇が大きな口を開けながら、少年の方に迫っていく。


「せいっ!」


 そんな化け物が相手でも、臆することのない少年はそのまま大蛇へとライダーキック。

 少年の足は大蛇の角を折り、頭をかち割り、そのまま体を真っ二つに引き裂き、大蛇をただの肉片へと変えてしまう。


「魔石ーっと」


 あっさりと大蛇を返り討ちにしてみせた少年はそのまま懐から短刀を取りだし、動かなくなった大蛇の方に近づいていく。


「この……この……なんていうんだろう?こいつ、ん~、せやなぁ、うん。知らないや。とりあえずは、蛇かな。この蛇の魔石はこいつの尻尾の方を開いていくと───」


 そんな少年に向け、拡大するのが彼の周りにふよふよと浮いている一気のカメラである。

 日本で今、大流行中のダンジョン配信。

 その活動をしている者の一人である少年はカメラに向かって言葉を語りかけながら、大蛇の体を捌いていく。

 それで取り出すのは一つの結晶、多くのエネルギー源となる魔石である。

 少年が大蛇から魔石を採取していた時。


『アオーンッ!!!』


 その少年の耳に遠くの方から近づいてくる犬の遠吠えが聞こえてくる。


「おっ?」


『アオーンッ!!!』


『アオーンッ!!!』


『アオーンッ!!!』


 そして、ダンジョンの通路の奥から姿を見せるのは三つの頭を持つ巨大な犬であった。

 大蛇よりも遥かに強そうな相貌を持つ、ケロべロスのような犬を前にして。


「お座り」


 少年は口を開く。

 たった一言。

 それだけで、魔物は少年の言葉に屈し、その場でしゃがみ込む。


「待ってて」


 そして、そのまま犬の方から視線を外し、少年は代わりに自分の隣で浮いている半透明のディスプレイの方に視線を向ける。

 そのディスプレイに表示されているのは自身の配信画面である。

 そこには現在の視聴者数、コメントなどが表示されている。

 

「……」


 少年はダンジョン配信者として活動している。

 だが、その活動が身を結んでいるかと言えば、そうではない。

 配信画面に表示されている、現在の視聴者数。

 それは、たったの一人だった。


 コメント

 ・さすがに現実感なさすぎ。シャースネークの名前を知らないのもヤバいし、それで殺せるのも謎。あと、犬は何だよ、それ。適当にやってんなよ、朝から冷めたわ。


 そして、その一人の視聴者もいなくなる。

 少年の視聴者数は簡単にゼロとなったのだった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 それを前にして、少年は深々とため息を吐く。


「現実感がないって何……?はぁー、もう、帰ろ」


 深々とため息を吐いた少年は、そのまま気分も一緒に下がらせる。

 そして、そのまま少年、神々廻千夜はダンジョンから地上へと戻ることを決意するのだった。

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