マーカー
ミノタウロスは僕の槍で貫かれ、海に流され、そして、その活動を停止させた。
「ふぅー、何とかなりましたね」
いやぁー、強敵だった。
僕も、時雨さんも共に無傷で終えられてよかったね。
「そうね……これで、330階層を突破」
「まだ、350階層は遠いですけど」
あと20階層……ここから、あと20階層だ。
数字以上の差がある。
「それでも、希望は見えてきた。それだけで大きい。ありがとね」
「それは目的を達した時にもらいますよ。それで?今日はこの後、どうします?」
「そうね。今日のところはもう、帰ろう。二人でマーカーたてて」
割と満足していた僕の言葉に返答する時雨さんはそのまま、一つの小さな杭を取り出す。
「……何、それ?」
時雨さんが取り出した。それ。僕はまるで見覚えがなかった。
「……えっ、マーカーだけど、知らないの?」
「知らない、ですね。何それ?」
マーカー。
そんな単語聞いたこともない。
「う、ウソでしょ……?冒険者にとっての必須品だよ?ボス部屋の魔物にこれを指すと、次にダンジョンへと来るときにここへと転移出来るのよ」
「ど、どういう原理!?」
「それは私も知らないけど……ダンジョンから出土しているものだから」
「そ、そうだったんですか……えっ、いや……桃山さんも教えてよ、それがあるなら」
めちゃくちゃ便利じゃないか。
それ。死ぬほど便利じゃん!
桃山さん、もっと早く、それを教えてほしかった……っ。
「二日に、分けていたよね?Sランク冒険者になるための試験。もしかして、二日目も一から行ったの?」
「そうですよ。むしろ、それ以外になくないですか?」
「あるんだよ……っ、信じられない」
「僕も今、信じられないです」
自分でもここまで何も知らないとは思っていなかったよ。
いや、確かに僕も自分から外の情報を集めようとしていなかったけど。
「……僕、全部のダンジョンでチマチマ歩いていましたよ。何だったのでしょうか。僕の苦労は」
こんな無駄な努力があるだろうか?いや、ない。
もう反語で不満を垂れちゃう。
「まぁ、今更だし、良いや……知れたことを喜びましょう」
「ポジティブね。えっと、一応、マーカーについての説明をしておくと、一つのダンジョンにつき一つまでしかたてられない。複数人の場合は、共に触れ合った状態でマーカーを突き刺すと、その触れ合った者たちで来ることが出来る。マーカーはそこそこ高いの。だから、基本的に複数人で一人」
「なるほど。それじゃあ、僕が時雨さんに触れるだけ良いんですか?」
「うん。そしたら、私が指すから。あっ、それと、これを指しておけば、マーカーに触れるだけで地上にまで帰ることが出来るわ。このマーカーで今日はサクッと帰りましょう」
「えっ……?そこまで?」
至れ尽くせりとはこのことか。
何でこんな便利なのを、僕はずっと知らなかったのか……そんなことを考えながら、僕は時雨さんの肩へと手を置くのだった。
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