平将門の怨霊

 神格持ちは不味い。

 どう考えても不味い。

 あまりにも不味すぎるっ!?


「……二人とも、下がって」


 僕は刀を構え、時雨さんと甘夏を強引に後ろへと下げさせる。


「……」


 刀を構える僕に相対するようにして、自分の前に立つ神格持ちの魔物、平将門の怨霊も刀を構える。


「はっ?」


 そして、その次の瞬間には僕の前へと平将門の怨霊が距離を詰めてきており、自分に向かって刀が振り下ろされていた。


「っぶねっ!?」


 それを僕は付喪神の刀の刃身を伸ばす効果も活用し、ギリギリのところで受けとめ、それを辛うじて受け流す……どうしよう、めちゃくちゃ痛い。

 一撃を受け流しただけで堪えきれないような痺れが、僕の手の中に残ってくる。


「クソっ!?」

 

 そんな中で、僕は刀を一度消して、自分の手の中にある重みを消して身軽になった腕だけを振るう。


「ラァっ!」


 付喪神の召喚解除も、再召喚も一瞬で可能だ。

 僕は一度消した刀を再び、振り下ろせるようなタイミングになって手へと握り、平将門の怨霊へと叩きつける。


「かたっ!?」


 刀を持ったまま、態勢を流れさせている平将門の怨霊へと僕が無理やりに振るった一撃は、その相手が持つ鋼鉄のような肌に弾かれる。

 甲冑を外して振るったというのに、返ってくる手ごたえは甲冑を攻撃した時と変わらないという絶望だった。


「ごふっ!?」


 僕がそれに驚愕し、体を一瞬だけ強張らせた。

 それだけ、もう終わりだ。

 平将門の怨霊の体が僅かに動き、僕の腹へと彼の膝蹴りが真正面から入って、自分の体が大きく浮き上がり。

 

「かはっ!?」


 追撃として振るわれた拳を顔面に食らって僕は大きく弾き飛ばされ、そのまま無様に地面を転がっていく。


「……ッ!?」


「千夜ッ!!!」


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 これは、無理───ッ!?

 今の僅かな応酬だけで内臓はズタズタで、自分の肋骨が大量に粉砕された……たった、蹴り一つしか食らっていないというのに、だ。


「げぇぇぇぇぇぇぇぇえぇっ」


 そして、顔面に受けた拳のせいで大量の歯が飛ぶと共に片目が何処かへと潰れながら飛んでいき、残った片目も半分くらい潰され、血で溢れる。

 僕は狭まり、真っ赤に染まった己の視界の中で、自分の視線を平将門の怨霊へと向ける。


「……」


 そこには、刀を持ち、こちらを睥睨しているその姿がある。

 舐められているのか、地べたを這いずり回っている僕を前にしても、追撃しようという仕草は見られなかった。


「お願い」


 その時間を活用し、僕は回復が可能な小さな魔物を召喚して、自分の体を癒し始める。

 僕がどんどんと回復していっている中でも、平将門の怨霊はまるで動く様子は見せない。


『ど、どうしたの……?さっき、悲鳴が聞こえたんだけど?』


「……ふふっ」


 とはいえ、舐められるのも仕方ない、かなぁ?

 今の僕じゃどうあっても、勝つことは出来ない。舐めて同然の話……蟻を殺すのに本気となる人間なんているわけないよね。


「ふぅー」


 ここに至っては仕方ないかな。

 何故、平将門の怨霊が動きだしたのか、この場に立っているのか───それはわからない。ただ、わかるのはこいつをこのままにしておけば、世界が終わるということ。

 日本最強と謳われる牧野さんだって、勝てやしない。

 なら、ここで、何をしてでも、勝つしかない。


「ごめん、二人とも」


 僕は中指を噛み、己の血を流す。

 そして。


「高天原神留───成る」


 自分の家系に伝わる調伏。

 その、本来の意味を、使い方を、今、僕は完全に開放させるのだった。




『───』


 


 雷鳴が鳴り響き、一柱が召喚された。

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