神格持ち

 僕が蠅の魔物の全身をズタズタにし、殺してしまった後。

 蠅の魔物が産みだしていた、魔物たちもまた、完全に消えてなくなる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」


「し、死ぬかと」


 それにより、甘夏の命を奪おうとしていた魔物も消えた。

 いくら時雨さんとはいえ、甘夏を庇いながら深層レベルの魔物たちを相手に戦い続けられるわけじゃない。早々に倒せてよかった。

 長引けば、周りに甚大な被害が出ると共に、二人も死んでしまうような事態になっていたかも。

 

「二人とも、お疲れ様です」


 何とかなった現状にほっと息をつく僕は、二人の方へと労いの言葉を投げかける。


「え、えぇ、ありがとう。本体を倒してくれて。おかげで、助かった」


「そうね……本当に。やっぱり、私は……足手まといにもなっちゃうよね」


「協力しあいだよ、こういうのは。二人がその他の魔物たちのヘイトを取ってくれていなかったら、僕もここまで有利には戦えなかったよ。甘夏もありがとね。助かったよ」


「そうね」


「……ッ!うん、どういたしましてっ」


 僕たちが蠅の魔物を倒し終わり、軽く言葉を交わしていた中で。


『ね、ねぇっ!?どうしたの、輝夜っ!?輝夜っ!?』


 急に通話越しに焦ったような天音さんの声が飛び込んでくる。


「……っ?天音さん?どうしたんですか?」


『……ッ!?せ、千夜!か、輝夜がいきなり震え出してっ!?……どうしたの!?輝夜っ、何?そんなぶつぶつと小さな言葉で呟き続けられても私には聞こえないっ』


「いきなり震えだす?何で、そんなきゅ……ッ!?」


 天音さんの言葉に僕が首を傾げたその瞬間、背筋にゾッと凍るようなものが走る。

 それと共に、僕が背筋に走ったのとは別として、純粋な冷気がこの場に漂い始める。


「さむい」


「ちょっと、なに?この冷気は」


「……」


 冷気だけじゃない。

 この場には分厚い霧まで漂い始め、それと共に青白い火の玉が幾つも浮かび始める。


「……ッ」


「な、何が来るのっ!?」


 本当に、何が来るのだろうか。

 僕は自分の手元にある刀を力強く握りながら、ただその時を待つ。


「フゥー、フゥー、フゥー」


 霧を引き裂いて、冷気を纏い、青白い炎の玉を使役して。

 一体の、人型の魔物が近づいてくる。

 その姿格好は2m以上ある巨体であり、その巨体を甲冑が覆い隠している。甲冑より僅かに見える素肌の部分は黒光りする鉄のような素肌があった。

 そして、そんな魔物の手には僕と同様、一振りの刀が握られている。


「……はは」


 その姿を見た瞬間、僕は思わず乾いた笑みを浮かべてしまう。


『ど、どうしたの!?そっちの方でも、そっちの方でも何かあったの!?』

 

 僕がマイクを外の音も拾うように設置していることもあって、天音さんにもこっちのやり取りは届いている。

 自分たちの言葉を聞いて、何か、異変が起きたのだろうと判断した天音さんが声を荒げながら声をかけてくる。


「天音さん、ここって今、東京の何処でしたっけ?」


 そんな天音さんへと、僕は一つのことを尋ねる。

 ここが、何処であるか。

 天音さんの言葉に従って移動してきただけの僕はそれを完全に把握出来ていなかった。


『えっ……いや、確か、千代田区のはずだけど』


「……なるほど」


 千代田区かぁー、確か、あったよね。千代田区には。一つの首塚が。


「……神格持ちじゃないか」


 平将門。

 クソっ、何で、確固たる一体の個として今も残り続けているんだ。

 神としての格をしっかりと持った怨霊が、魔物となって僕たちの前に立っている……その事実を前に、僕は冷や汗を流すのであった。

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