人理教
自分の元に集まってくる機械の腕。
その数は既に十を超え、百に届きそうな勢い……だが、それらを僕は刀で一蹴。
一瞬ですべてを跡形もなく斬り捨て、仮面の人物の方へと距離を詰めていく。
「……くふふ、想定外です」
あっさりと距離を詰められ、己の背後にあるマシンガンの機械の腕まで完全に斬り捨てられた仮面の人物は僅かな沈黙の後、笑みを浮かべる。
「人間の科学文明を崇拝し、神はいないと断じ、その存在を徹底的に否定し、排斥しようとする集団……人理教。科学のみを信仰する。そんな組織があるって聞いたことあるんだけど……君はどう思う?」
そんな仮面の人物へと僕は疑問の言葉を投げかける。
「我々はそんな、排他的な集団ではありませんよ。ただ、神がいたとして、霊長は人類である……ただ、それだけですよ?神頼みをしていたとしても、事態は解決いたしません。我々が、我々の手で未来を切り開くのですよ」
「それは間違いないけどね」
神は必ずしも人の味方じゃない。
あの方々はただ、この世界に存在しているだけだ。
自分たちの苦難は、自分たちで取り除かなければならない。
「かといって、人体実験を肯定するのはやりすぎだと思うよ?」
人理教の存在は少し、聞いたことがあるだけ。
本当に存在しているとも思っていなかったし、人体実験云々もただ噂として聞いていただけど、これもまた、事実なのかな?大量の人間を攫って多くの人体実験を行っているという話も。
「人類の夜明けの為です。この、ダンジョンのある世界から、本来あるべき正常の世界へと戻すのですよ」
「日本としては辞めて欲しいばかりだよっ」
「何をおっしゃいますか……それで?貴方様は何故、我々の組織について見識が?我々は自分の身元、存在を公開しているつもりなどありませんが……」
「ん?全部噂として聞いていただけ……とはいえ、噂として僕に色々なことを教え込んでいるのは輝夜さんですからね。全部、ただ見たのを話しただけなのかもしれないけど」
「あぁ、なるほど……あの、少女ですか。それならば、納得です」
僕の言葉に仮面の人物が頷くと共に、その人物はピクリと、己の手のひらの指をほんのわずかに動かす。
その瞬間、仮面の人物の中にある魔力が膨れ上がってくる。
「ふふっ……」
僕に首へと剣を突きつけられた仮面の人物は、今までの会話の果てに、現状を何とかしようと動き出していた。
「鯨」
「はっ……」
だが、それよりも僕が魔物を召喚する方が早い。
地面が割れ、一つの巨大な鯨が地中へと顔を出し、仮面の人物の体を完全に包み込んでしまう。
「悪いね、もう既にほとんどの魔物は帰ってきているんだよ。事態は収束しつつあるようでね」
仮面の人物が落ちていった僕の召喚する巨大な鯨の腹の中。
その中にも大量の魔物たちが待機している……それらの魔物たちに囲まれる仮面の人物が、無事である道理はない。
「生け捕り成功、っと」
僕は鯨をこの場から消し、満足げに頷く。
貴重な捕虜ゲット。
そう言ってしまっていいだろう。
「それにしても、躊躇なく自爆しようとするかね?普通」
先ほどの仮面の人物の動き。
それは己の魔力を暴発させ、自分諸共ここら一帯を吹き飛ばすような、自爆の魔法だった。
鯨の腹の中では、魔力など意味をなさない。魔力が体内より漏れると同時にその体内に吸収され、完全に消え失せてしまう。
自爆は、完全に鯨が無効化し、そのままお腹の中にいた魔物たちの手でボッコボコにされた仮面の人物は無事に生け捕りとなった。
「さて、と」
これで仮面の人物は良し。
となると、だ。
「残るは、黄野くんだけか」
「……ァアアア、ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!」
僕はこの場に残された、黄野くんの方に視線を向ける。
「グァ……ァァァァァァアアアアアアアアアアアアア」
黄野くんは今、僕の足蹴りを受けて地面に転がった時のまま、苦悶の声を上げてその場にのたうち回っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます