黄野くん
目の前で蹲っている黄野くん。
「ガァァァァァァアアアアアアアアアアッ!」
その彼へと僕が視線を送ったその瞬間、黄野くんが大きな遠吠えを上げ、こちらの方へと突っ込んでくる。
「お座り」
特に何かするわけでもなく、無意味に突っ込んできただけの黄野くんの頭を掴んだ僕はそのまま地面の方へと叩きつける。
そして、僕はそのまま彼の頭の中にいる悪い者を祓う。
「あれだけ科学技術に執着しておきながら、洗脳に使う方法はずいぶんとこちら側に寄っているんだな」
黄野くんの体内を蝕んでいたもの。
それは古来より日本に伝わっていた神仏由来の呪物を利用してのものだった。科学技術を信奉しているくせにここら辺は良いのだろうか?
という疑問ははそっと、自分の中に仕舞っておいてあげよう。
「あ……ァ?あぁ……」
なんていう馬鹿なことを僕が考えているうちに、その内部を呪物によって蝕まれていた黄野くんが徐々に意識を取り戻し始める。
「……ぁぁああ」
その体は元の異物の姿から、元の華奢な姿へと戻る。
「お、俺は……」
そして、その瞳に確かな理性の輝きが煌めき始める……うん。問題なく、彼の体内にある呪物は祓えたようだ。
「おはようございます。黄野くん」
理性を取り戻したであろう黄野くんの方に僕は声をかける。
黄野くんと会話を行うのは実に、久しぶり……いや、別に元々、そんな会話なんてしたことはないような間柄だけど。
「あぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああっ!?」
だが、そんな風に声をかけた僕に対して……陽キャである黄野くんに対し、割と勇気を伴って声をかけた、そんな僕を無視し、黄野くんは一人で大きな悲鳴をその場で上げ始める。
「黄野くん?」
「なんだっ!?なん……だ、これ。お、俺が……?いや、違う……こんな俺がぁぁぁぁぁあああああああああ!?でもぉっ!?お、覚えているぅっ!?」
暴走していた時の記憶もしっかりと残ってしまっているのだろう。
声をかけている僕のことを無視し、一人で黄野くんは動揺の声を漏らし始める。
「大丈夫?落ち着いて?」
そんな黄野くんのことを押しつかせようと僕は彼に向かって声をかけるわけであるが……。
「ち、違う……お、俺は……俺は、こんな、こんなことをしたかったんじゃない……違う。俺は、誰かに、誰でもいいから俺を見て欲しくてぇ」
黄野くんは完全に自分の世界について閉じこもってしまっていた。
「あらぁー」
全然こちらの話を聞いてくれない。
つい、さっきまで熱い戦闘を繰り広げていた相手のはずなんだけどね?いや、別にそんな戦ってはいないか。
「ふぅー」
まぁ、でも、とりあえず……黄野くんが落ち着くまで待つしかないかなぁ?
既に、重傷者含め、すべての人が避難し終えている冒険者ギルドの中で僕は息を吐く。
「出来るだけ、人が集まってくるまでに終わらせたいところだけど」
黄野くんは果たして、未だ燃えている冒険者ギルドの中に消防車や救護の人たちが来るまでに落ち着いてくれるのかな?
ひぃひぃと口からよだれを垂らし、絶望の表情で発狂している黄野くんのことを見ながら、僕はそんな悠長なことを考えていくのだった。
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