第二章 冒険者

久しぶりの学校

 時雨さんを助けてから少し後、僕はしっかりと元の階層に戻って無事にSランク冒険者になるための試験を終え、神社の方へと戻ってきていた。

 二日間放置していた神社であるが、来訪者は存在せず、僕が出た時と比べて僅かに埃が積もっている程度の変化しかなかった。

 僕はその神社を少し掃除し、東京から帰ってきた日は眠りについた。


「……おはよぉ」

 

 そして、次の日、僕はいつものように高校へと登校してきていた。

 今日の朝は甘夏と会わなかったので、一人。クラスの中に入ると共に誰も聞こえないような声であいさつの言葉を口にする。

 その後になってそそくさと自分の席へと向かおうとするのだが……。


「おぉ!千夜!昨日までの配信、見ていたぞっ!」


「Sランク冒険者昇格おめでとう!」


「時雨ちゃんを助けてくれてありがとぉーっ!本当に、本当にありがとう!私、本当に時雨ちゃんが死んじゃうかとぉ…」


 一気に自分の元へと多くのクラスメートたちが集まってきてしまう。


「わわっ!?」


 僕はクラスの陰キャである。

 前にちょっと注目を集めたが、陰キャである。


「あわわ」


 いきなり大量の人たちに群がれた僕は何も答えられず、ただただパニックの様子を見せることしかできなかった。

 

 ■■■■■

 

 てんやわんやの朝。


「はぁー」


 自分の元に集まってくる人たちとまるで会話が出来ず、永遠とあたふたしているだけだった僕はお昼の時間。

 海馬と有馬の二人と共に、人気のない屋上へと向かう階段にやっていた僕はそこで深々とため息をついていた。


「あんなに注目を浴びるとは……」


「まぁ、冒険者は大人気の職業だからね。かくいう俺も、子供の頃は冒険者に憧れていたものだよ」


「そうでござるなぁ、それに圧倒的な話題性もございましたから。目立つのは当然とも言えますぞ」


「……まぁね」


 Sランク冒険者になった上、大人気冒険者である時雨さんを助けたわけだからね。これで、目立たないと言う方が嘘だろう。

 とはいえだ、ここまでの急激は変化はちょっと受け付けられなかった。。


「良いじゃないか、いっそのこと誇ればいい。陽キャの仲間入りだよ?」


「それが出来たら、もっと早く僕はクラスの中心にいたよ?出来ないから陰キャやっているんだよ」

 

 元々、僕はクラスの中心人物である甘夏の幼馴染で、近くの神社で神主。

 冒険者として昔から活動していて、実力的に僕が完成したのは遥か昔のこと。

 自分という人間の条件だけを並べれば、クラスの中心人物にはなれなかった……それが、事実なんだ。


「ちょっと……あんまり注目されるの得意じゃないんだよなぁ」


「なら、何で配信者なんてやっているんだよ」


「生活するのに必要なんだよ。これは……僕、お金ないから。うちの教訓的にダンジョンで稼げないから」


「……毎回、聞いているけど、意味のわからねぇ教訓だよなぁ」


「惨いでござる」


「配信は仕方なくでやっているだけだし、配信なら、別に目の前に人とかもいないし……やりやすいんだよね」


「気持ちはわかりますぞぉ!インターネットであれば無敵でござる!どれだけアンチどもが騒いでいようとも無敵でござる!コポォーっ!」


「……そういえば、お前はエロゲソムリエを名乗って行動していたんだっけか」


「そうでござる。登録者数は十万人を超えているでござるよ」


 ふふっ……ずっと、有馬にはチャンネル登録者負けていたけど、最近になってようやく勝利した。

 

「あっ、そういえばさ、今日のクラスに黄野くんいなかったけど、彼はどうしているの?」


 ちょっとした優越感を抱きながら、それをすぐに霧散させた僕は二人へと疑問の声を向ける。


「あー、前から来ていないぞ。応えたんだろ、あんときの出来事が」


「それに止めの圧倒的な救出劇でござる」


「まぁ、でも、スカっとはしたよな。ずっと、うるさかったし。俺はBランク冒険者なんだっ!ってずっと言っていて」


「そうでござるなぁ」


「……ふーん」


 大丈夫、なのだろうか?

 僕が河川敷に置いてきたときも元気だったと思うのだが……何か、思いつめていないと良いのだけど。

 少し挑発されたからと言って、別に苦しんで死ぬ!なんてとても思えないのだがぁ。


「ねぇ」


 なんて会話を三人で屋上へと向かうための階段でしていた僕たちへと、一つの女子の声がかけられる。


「「「……っ!?」」」


「千夜。少し、良いかしら?」


「……あ、天音さん」


 自分たちへと話しかけてきた人物。

 それは僕の隣の席であるクールビューティー少女、天音水樹さんだった。

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