お願い
天音さんへと声をかけられた僕。
「な、何かな……?」
そんな僕はそのまま、何処から持ってきたのか、普通は手に入らないはずの屋上のカギを持っていた天音さんと共に二人きりで屋上に立っていた。
「少し、話があるの」
「……はい」
「まず、私に姉がいることは知っているかしら?」
「いや、知らない、かな?」
隣の席の少女で、チラホラ会話することもある天音さんだけど、その彼女がどういったプロフィールなのか……僕は全然知らなかった。
「そう。私の姉が昨日、千夜に助けてもらった時雨なのよ」
「……ん?」
「一番初めに、私の家族を助けてくれたことに対して、感謝の言葉を口にするわ。ありがとう」
「えっ、えっ……へっ?」
僕の前でお礼の言葉を告げる天音さんを前にして、自分はただただ困惑の言葉を口にし続ける。
全然、現実を呑み込めていなかった。
えー……あー、えっ?天音さんと時雨さんが姉妹。なる、ほど……確かに、少し似ている雰囲気があるかもしれない?
「それで、その上で更にお願いごとがあるのよ」
「……お願い事?」
「えぇ、そうよ。私の、母についてかしら……。お姉ちゃんが今、ダンジョンに潜っていることにも関係があるのだけど、私の母は今、難病を患っているのよ」
「難病?」
「えぇ、そうよ。今、私の母は寝たきりの状態にあるのよ。それで、お姉ちゃんがダンジョンに潜っていることと何が関係あるのか、っていう話だけど、私には更に一人、妹がいてね」
三姉妹……!?そんなにも、姉妹がいたのか。
勝手に天音さんは一人っ子だと思っていた。
「その妹が持っているスキルが神託。天より自分の困難を解消するための術を教えてくれるっていう効果なの。その神託より得られた母を救うための方法。それが新宿ダンジョンの350階層にいる魔物を倒し、全てを治す万能薬を手に入れるってことなの。それで時雨がダンジョンに潜っているわけだけど……ただ、お姉ちゃんはちょっとコミュ障気味なところがあって、味方がいないのよ」
「……うん?」
「ただ、ソロで潜るのは少々不安なことも多くて、よかったら、時雨と一緒にダンジョンへと潜ってくれないかしら?350階層に行くまでで良いのよ」
350階層まで……そこまでかぁ。
割と、遠くないかな?
それまでの期間、うちの神社とダンジョンを空ける、っていうのはぁ……。
「もし、やってくるのであれば……何でもするわ」
「……はにゃっ!?」
流石に厳しいかな?なんてことを考えていた僕は続く天音さんの言葉に動揺の声を漏らす。
「私の、母の為なら……何でもするわ。今の私が千夜に渡せるのはこの身くらい」
「い、いや……」
「貴方が考えている下種なことでも受け入れてみせるわ」
「そ、そんなことは考えていないよぉ?」
別に、有馬から貸してもらったゲームのこととかは考えていない。
「それで?どうかしら?」
「……夜、遅くまでじゃなくていいなら受けるよ」
改めて、天音さんから聞かれる僕はしばし悩んだ末、答えを出す。
「べ、別に天音さんの礼が効いたとかいうわけじゃないけど……この街に住む人から面と面を合わせて、請われたらちょっと断りづらい、かな」
神社のことなら何とかなる。別に、帰ってくれば良いのだ。青龍に乗れば東京から片田舎であるここまでもひとっ飛びだ。
夜に神社へと戻ってきて掃除して、ダンジョンに何か異変が起きていないかも合わせて確認すればいいだけだからね。
昼間の間は別にいいでしょ、参拝客なんてまず、来ないし……来たとしても、別にそこで僕がいる必要とかもない。
「……っ、ほんと、に良いのかしら?」
「うん……天音さんは僕が何かを忘れた時とか、筆記用具を貸してくれたりしているしね」
「……だいぶ、些細なことだけど」
「そんな大層なものを僕は求めないよ」
ヒトは、助け合いしてこと、だよね?
「それじゃあ、高校側にしばらく休む旨を伝えないとね……確か、冒険者関連だったら長期的に休むことが許可されていたはずだったし」
天音さんのお願いを聞いた僕は早速、行動を始めていくのだった。
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