具現領域
ダイダラボッチの巨体は、既にその多くが削れ、今ではちょっと大きな岩程度くらいの姿しか残っていない。
「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
もう少しで、ダイダラボッチが死する。
そんなところで、ダイダラボッチが大きな咆哮を上げると共に。
「……っ」
この、ダンジョンそのものが変わっていき始める。
ずいぶんと広かった大広場となっているダンジョンの石畳の床はぬかるんだ地面と薄く張った水たまりへと変わっていくと共に、壁や天井がなくなっていく。
そして、壁や天井の代わりに鬱蒼とした森が出現し始め、何処からか現れた太陽が輝き始める。
何が、起こっているの……?ダンジョンの環境を変えるなんて始めてみるのだけど……。
「こ、これは……っ」
困惑する僕を他所に、自分の少し後ろにいた時雨さんが何か、知っているかのような声を上げる。
「……何か知っているんですか?」
それに対して、反応した僕は疑問を投げかけるのだが。
「ダンジョン支配……イレギュラー個体のみが使える特殊能力の一つ」
「……イレギュラー、個体?」
返ってきた答えはまるで理解出来ないものだった。
「えっ……?いや、な、何でここまで強いのにイレギュラー個体は知らないの?」
「世間知らずなもので……」
「……イレギュラー個体というのはダンジョンの300階層以降のみで出現する特異な性質を持っている上に、その階層のレベルよりも強い魔物のことを指す。そんなイレギュラー個体の得意な性質の一つに、このダンジョン創生がある。これはイレギュラー個体が追い詰められたときに発動させる技のことで、ダンジョン内に自分にとって有利なるフィールドを作り出す。ダンジョン創生によって作られた空間内のイレギュラー個体が発揮する力は平時と比べ物にならないほど」
「あー、なるほど……つまり、このままにしておくと不味いわけか」
「そう……でも、止められる可能性はない。だから、早急に倒すか、逃げるかの選択肢しかないのだけど、この特殊能力の使用中のイレギュラー個体の耐久は比類なく上がり始めるから実質的に答えは───」
勝手に一人で納得してしまった僕はダイダラボッチの前で、自分の手首を短剣で斬り裂いて血を流し、それをそのまま己の周りに円を描くように撒く。
「具現領域」
そして、そのまま僕は自分のスキルを発動させる。
「……えっ?」
ダイダラボッチの力により、急速にダンジョンの内部が変わっていた中で、その更に上から僕が自分の空間を展開する。
この場全体を己の作り出す小さな世界によって塗りつぶしてしまう。
「こ、ここはっ!?」
ダイダラボッチが作り出している途中であった空間は、僕の作りだした薄暗い洞窟の中へと変化する。
「みんな、止めを」
この洞窟内部に特別な性質等はない。
ただ、ダイダラボッチの邪魔の為だけのものである。
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
自分の特殊能力を無効化されたからだろうか?
いきなり抵抗をピタリと止めてしまったダイダラボッチは、そのまま僕が召喚していた魔物たちの嬲られるだけ嬲られ、その体を完全に崩壊させる。
どれだけ体の体積が減ろうとも蠢いていたダイダラボッチは、その体躯が人間とそう変わらなくなるまで削れた後、ようやくその体を光へと変え、そのまま消えていく。
これで、ようやく討伐だろう。
「結局、何も残らなかった」
ここまで苦戦した魔物でありながら、得られた素材はゼロ。
実に意味の分からない奴である。憤慨。
「さて、と」
まぁ、あくまで僕の目的は人助けだからいいけどね。
「んっ、それじゃあ、時雨さん!」
無事にダイダラボッチを倒し終えた僕は視線を時雨さんの方に送る。
「……っ」
「僕はここら辺で失礼するよ。Sランク冒険者になるための依頼完遂まであと少しなんだよ。数体倒せれば、終わり!ってところなの。今日中に終わらせたいから、もう戻るねっ」
「……えっ?」
「それじゃあ、これからは気をつけてねぇー。僕は普段、東京にいないし、助けられると思えないからさっ!それじゃあ!」
時雨さんに言いたいことだけを一方的に言い終えた僕は、そのまま試験を終わらせるために元いた階層の方へと戻っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます