奥側

 地面に倒れた黄野くんへと声をかける僕。

 その僕が声を届けるのは、彼の奥側にいる人物だった。


「……ナニ、ヲ?」


 そんな僕に対して、黄野くんは不思議そうな仕草を醸し出しながら、ゆっくりと首をかしげる。

 

「……ミロ、オレヲッ!ムシスルナァァァァァァァアア───ッ!?」


「うるさい」


 そして、そんまま激昂し始めた黄野くんの口を手で塞いでしまう。

 

「おかしいな。うーん、黄野くんの奥側にいるのはただの人間……に見えるんだけど、スキルを使っていないんだよなぁ?何を使って、君はそこにいるの?」


 神様。

 その存在を気取れぬようじゃ神主失格で、スキルの元をたどっていくのであれば、ダンジョンに流れている神様の力に起因する。

 要は僕であれば、人間の気配等を軽く探ることが出来る。


「うーん、何処の人間、だろうか?」


 黄野くんの奥側にいる人物……それは文字通りに彼の奥側にいた。

 肉体の内側へと寄生するように黄野くんにへばりついている存在から感じるのは神様の力……ではあるが、その力の種類はスキルじゃない。

 かといって、その存在が神様本体であるわけでもない。

 これは一体、どういうことだろうか?


「おやおや、こうも簡単に気取れるのですか」


 なんてことを僕が考えていた中で、自分の背後から一つの声がかけられる。


「そんな簡単に出てくるんだ」


 黄野くんの中にいた人物。

 それはノータイムで移動し、自分の背後に立ってみせていた……何のモーションもなかったけど、一体どういう術なのだろうか?


「うーん」


 そちらの方に視線を送る僕はその人物のことを観察する。

 その人物は全身を黒いローブで覆い隠しているような大柄の人物であり、表情を隠すような仮面を身につけていた。

 聞こえてくる声も何処か、ノイズの入ったようなものであり、その声が男性であるのか、女性であるのかさえもよくわからない。


「んー、こうして、目と目を突き合わせても不思議だ。まったくもって理解出来ない相手だ」


 人間ではある。

 でも、感じる力はスキルでも、僕のような神主だから持っているような力、というわけでもないように見える。

 初めて見るタイプのような人間だ。


「それは、こちらも同じですよ……幼少期を神と共に過ごし、人の身でありながら神の力に迎合し、これ以上ないまでの神主となっている男……」


「知っているじゃん」


 びっくりするくらいに僕のこと詳しいじゃん。


「神に育てられた個体。ぜひ……欲しい。どうか、私どもと共に来てくれませんか?」


「行く訳ないでしょ?」


 知らない人について行ってはいけません。

 それは小学生が教わるようなことだ。


「それは残念です……でしたら、実力でいただくことにいたしましょう」


 仮面の人物はゆっくりと腰を落とし、仮面の一点がバックりと縦に割れて禍々しい一つの瞳がぎょろつき始める……これ、本当に人かな?


「……いきなり始めるじゃん、戦闘」


 吹き荒れる殺意を前に、僕はため息を漏らす。


「黄野くん。暴れなさい」


「ガぁッ!」


 仮面の人物の言葉に反応した黄野くんが信じられないくらいの力で動き出し、僕の拘束から逃れて自分に向かって剛腕をいきなり振るってくる。


「わぁー」


 それを軽い動きで避けた僕はそのまま黄野くんを無視し、付喪神の刀を持って仮面の人物へと真っすぐに向かっていくのだった。

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