久方の

 火の手の上がっていた冒険者ギルド。

 そちらの方にやってきた僕は、その現状把握に努めていた。


「……うわぁ」


 とはいえ、その状況は一目見ればすぐに理解できるが。

 今、冒険者ギルドの建物は大きく崩れ、火の手に包まれている。

 

「いたいっ!?いたいっ!?だ、誰かぁぁぁぁ!?」


「うわぁぁぁぁぁあああああああああああ?!」


「クソッタレっ!?今、助けるから……クソっ!?あついっ!」


 そして、その冒険者ギルドは地獄絵図となっていた。

 恐らくは街が他のところとは違って、魔物に襲われない中であっても、何かあった時にすぐ、動けるように待機していたのであろう人たちがいたのだろう。

 その大勢の人たちが建物の崩壊に巻き込まれてしまったことで、この場には多くの被害者が生じていた。


「介護を」


 そんな中で、僕は僅かに戻していた手勢を召喚し、この場での救護に当てさせる。


「……」


 手勢を更に使い、もっと身軽になった僕はまだ形を保っている冒険者ギルドの中へと入っていく。


「オレをっ!オレをSランクの冒険者にしろォっ!!!」


「……ッ!?」


 そして、僕はすぐにこの冒険者ギルド内を無茶苦茶にしたであろう人物を見つけることが出来た。

 

「そうすれば、そうすれば……ミトメルンダッ!チチモ、ハハモ、セカイガオレヲッ!!!」

 

 冒険者ギルドで働く桃山さんの方へと詰めより、声を荒げている人物。


「……黄野くん」


 僕の知る姿とは大きく違う。

 金髪に染めた髪を伸ばし、チャラついた見た目でありながらも、体つきは華奢で冒険者であるように見えなかったその彼は今、人とは思えぬ体を。歪に膨らんだ筋肉に、充血しきった真っ赤な瞳。荒々しく、獣のように伸びた歯を見せる……そんな人物は、僕の知る華奢の姿とは大きく違う。

 それでも、確かに僕も知っているクラスメートの黄野くんであって間違いないだろう。


「……ッ!せぇぇんやァっ!!!」


 そして、そのつぶやきはしっかりと相手の方にも聞こえたのだろう。

 素早い動きでこちらの方に視線を向けてきた黄野くんはこちらを睨みつけてくると十に、大きな遠吠えを上げてこちらの方を大きく威圧してくる。


「せ、千夜くん!」


「桃山さんは下がって。黄野くんの相手は僕がするから」


「う、うん……気をつけて」


「もちろん」


 僕は桃山さんに下がるよう促しながら、ゆっくりと黄野くんの方に近づいていく。

 幸いにも、黄野くんの意識が完全にこちらの方でロックオンされていることもあり、桃山さんは安全に引き下がることが出来ていた。


「オマエサエ……オマエサエイナケレバッ!!!」


 ずいぶんと僕に執着しているように見える黄野くんはこちらを睨みつけながら、声を荒げてくる。


「そう」


 とはいえ、だからなんだという話でもあるけど。


「ずいぶんと、知性さえもなくしてしまったようで……かなり、弱くなったように見えるよ」


「ホザケッ!イマノオレハ、オマエヨリッ!」


 はっきりと、挑発の意味を込めて発言した僕の言葉に対して、黄野くんは激昂しながらこちらへと拳を振り下ろしてくる。


「ナッ!?」


 それを軽く受け止め、そのまま握力だけで握りつぶし、そのまま流れるように僕は黄野くんの足を叩いて彼の体を倒させる。


「僕が用あるのは君じゃない……その裏側にいる方だよ?ねぇ、君は、誰だい?」


 地面に倒れた黄野くん。

 その赤い瞳と無理やりにでも瞳を合わせに行く僕はそのまま、黄野くんではない人物へと声をかけるのだった。

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