コラボ配信

 朝、食パンを食べた後、早速とばかりに僕は時雨さんと共にダンジョンへとやってきていた。


「……あのミノタウロスはもういないんですね」


 330階層にまでマーカーを使ってやってきた僕は辺りを見渡しながら魔物がいないことを確認して首を傾げる。


「マーカー先で飛んだ先には魔物出ない。どういう原理かはわからないけど、ボス階層は各パーティー事、別の空間に飛ばされるの。だから、ボス階層では他の冒険者に会うことはないし、こうしてマーカーで飛んでくると魔物がいなかったり……そういう、特別な状況になるのよ」


「へぇー」


 そんな機能がダンジョンにあったのか。

 始めて知ったわ。


「それじゃあ、配信の準備を始めよう」

 

 魔物がいない安全な空間。

 そこで時雨さんは配信の為の準備を始める。


「……便利ですね」


 これまでの僕はこれ以上ないくらいちゃんと周りの魔物を倒して頑張っていた。その、僕の努力はなんだったのか。

 

「切り替えてこっ」


 だが、既に僕はそんな過去のことなんて忘れ、自分も配信の準備に参加する。


「これでよし」


「……枠よし、コメ欄よし、待機視聴者よし」


 僕も、時雨さんも配信経験は非常に長い。

 その準備はつつがなく、簡潔に終わった。


「……多いわね」


「ですね」


 待機視聴者数。

 その数は圧倒的……やはり、僕と時雨さんのコラボだからからだろうか。

 実に多くの視聴者が見に来てくれていた。これだけの視聴者数は見たことがない……これが、時雨さんの力だろうか?

 

「じゃあ、始めよう」


「はい」


 待機視聴者数の数に驚きながらも、僕たちは配信をスタートされる。

 その瞬間、これまでも活発に動いていたコメント欄が一気に加速していく。


コメント欄

・うそっ!?本当にカンヌシもいるっ!

・こんにちはっ!

・コラボ、マジなのかよ

・何で寄りにもよって、そいつなの?


 そのコメント欄は早すぎて追っていくのに苦労するほどだ。


「こんにちは。今日も配信を始めていくわ」


 一気に動き出したコメント欄……の方は見ず、何故か虚空を見つめながら時雨さんは言葉を話し始める。

 なんか、割と、時雨さんは何処を見ているかわからない時が多いよね。

 結構、虚空を眺めている姿を見ることが多い気がする……それが、配信の時にも表れるのはちょっと理解出来ないけど。


「まず、ごめん。みんな。330階層は攻略してしまった。今日は330階層以降のダンジョンでの模様を配信していく」


「ちなみに僕もいますよー、よろしくお願いします」


 失礼なことを考えつつ、僕も話し始める。


コメント欄

・冒険者ギルドの欺瞞を許すな!詐欺師の存在を許すな!

・詐欺師が時雨ちゃんに近づくな

・ふざけるな、なんでお前が時雨ちゃんの隣に立っているんだよ!

・ここで誹謗中傷している奴らはカンヌシに時雨が助けられたことを忘れたのか?

・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 自分が言葉を発した瞬間、コメント欄の荒れ具合が一気に上がっていく。

 久しぶりに、死ね死ねbotも復活しているし。


「うわぁ……荒れていますね。なんか、ごめんなさいね?時雨さん」


「気にしない。どうでもいい」


「……うわぁー、随分とあっけらかんと」


 あっさりと切り捨てた時雨さんの言葉に僕は苦笑を浮かべる。


「……カンヌシは、気にする?」


 そんな中で、虚空を見つめていた時雨さんはその視線を僕の方に向け、小さく首を傾けながら疑問の声を上げる。


「いや?特には。人など、こんなものじゃないかな?」


 僕はその言葉へと首を振って答える。

 人はいがみ合うもの……一個人が全人類に好かれるなんて土台無理な話であり、人の前に立ち、目立つということはそれ相応の誹謗中傷は受けるものだ。

 いちいち気にしていても仕方ないだろう。


「なら、コメント欄は気にせずに」


「配信でその在り方はちょっとどうかとも思いますけどね?」


「実力を見せておけば黙る」


「何とも心強い言葉」


「そんな御託はいいから、進んでいこう」


「まぁ、そうですね」


 僕は時雨さんの言葉に頷き、その手元に刀の付喪神を召喚させる。


「それじゃあ、次のボス階層まで行きましょうか」


「……次は、340階層。流石に、キツイと思う」


「まぁ、何とかなるんじゃないですか?」


 そして、僕は時雨さんと共に331階層の方に降りていくのだった。

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