険悪

「当たり前じゃない。私と千夜は古くからの幼馴染だもの。仲良いに決まっているじゃない」


「あら?その割には学校で話しているところは見たことないけど。私の方が話しているんじゃないかしら?」


「それはこっちのセリフでもあるわよ?私、千夜と貴方が」


「それは貴方が千夜のことを見てないだけ。二人ペアでの行動の時は基本的に私と千夜は組んでいるし、少し前にあった林間合宿では私たち二人で行動したし、何なら、同じ部屋で寝泊まりしたわ」


「はっ?」


「そうよね、千夜」


「そんなこともありましたね」


「……はぁ?」


「それに翻って、高校生活で何か、していたかしら?」


「……ッ」


「それで、よく仲良いと話せたわね」


「高校だけが、すべてじゃないわ」


「青春の多くは高校で行われるわ。特別体験の方が記憶に残るでしょう。普段の些細なことよりも」


「そんなことないわ……っ!些細なことの積み重ねこそが、人を作るのよ。そういう意味で、私と千夜はもう二人で一つと言っても……!」


 洗面所で僕を挟んで向かい合っている天音さんと甘夏。

 その二人には何処か、険悪な雰囲気が流れていた。


「……お腹空いたなぁ」


 そんな中で、僕はお腹空いたという自分の欲求に従い、二人を無視して洗面所を後にする。


「私は千夜がまだ赤ん坊の頃から、同じ病院で生まれて───」


「私の方は───」


 しっかりと魔物も使って自分の気配を消して移動した僕にあの二人は気づいていなかった。

 それにしても、何で、あの二人はあそこまで険悪な雰囲気になっているのだろうか……うーん、わからない。何でどっちが僕との関係が深いかで喧嘩をしているんだ。

 不毛だし、意味もないでしょ。


「ん、おはよう」


「おはよーっ!」


「おはようございます、二人とも」


 僕が洗面所の方から移動してやってきたリビングの方ではすでに、時雨さんと輝夜さんの二人が椅子に座り、朝ごはんを食べているような最中だった。


「千夜さんは朝ごはんを食べるかな?私が朝、食パンを焼いておいたのよ!」


 二人が座っている椅子の前にあるテーブルには数枚のトーストとバターが置かれていた。


「ん、僕の分もありますか?」


「あるわっ!」


「それじゃあ、貰います」


 僕は輝夜さんの隣へと座り、トーストへとバターを塗ってからパクリとひとくち。


「美味しい?」


「はい、美味しいですね」


「それならよかったわっ!」


 僕はモグモグとトーストを食べ進めていく。


「今日もダンジョンに行こうか」


 そんな中で、既にトーストを食べ終わっている時雨さんがこちらへと声をかけてくる。


「……そうですね」


 慌てて口の中にあったものを飲み込んだ後、僕はその言葉へと答える。


「前回は二人で行く初めてのダンジョン攻略でしたので、配信を回さなかったですけど、」


「そう」


「まぁ、既に時雨が配信する必要はないけどね」


「いや、僕は必要なのですけど」


 確かに、時雨さんはもうダンジョンで配信する必要はなくなったのかもしれないが、僕にはまだまだ全然ある。


「それに、配信活動も日和迷宮組の宣伝として考えるのなら、悪くはないんじゃないですか?」


「まぁ、そうかもしれないけどねー」


「こんな私の配信でも楽しみに待ってくれている人たちもいる。配信はする」


「時雨さんがそう言うなら決まりですね」


「にしし、でも、良いのぉ?二人でそんなコラボ配信ばっかりしていたら、付き合っているんじゃないか?って疑われるんじゃない?二人の相性もいいんだしぃ……大丈夫?時雨のガチ恋勢たちが発狂しちゃわないかな?」


「んなっ」


「いや、別に僕と時雨さんは付き合っているわけじゃないですし、そんなことにもならないでしょうから、気にする必要はないんじゃないですか?別に男女の冒険者パーティーというのもあるでしょう」


「「……」」


「んっ?」


 何故か、僕の発言の後、一気に空気が白けたような気配を感じ、首をかしげる。


「なんというか、千夜さんってさぁ……こう、ちょっと致命的なところがズレているよね。人の心知らなそう」


「えっ……?」

 

 な、なんてことを言うんだ……っ!

 僕はこれでも、色々と人間らしくなってきたんだよっ!

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