逆襲

 朝のHRの時間。

 そこでは甘夏と黄野くんがいがみ合いを始めていた。

 そして。


「謝って頂戴。失礼なことを言ったことに対して、千夜へと謝って」


「誰がだ!本当にお前は、あの陰キャがモンスタースタンピードを解決したとでも思っているのか?高校生が単独でモンスタースタンピードを倒すなんて、現実的に考えてありえない。何か、変なことをやっていないと、な……ズルい真似をするとは、陰キャらしいなぁ?」


「私の幼馴染に対して、陰キャとか言わないで!」


「何だ?お前?そこの地味な男子に惚れているのか?そんなに庇ってよぉっ!俺は事実を語っているだけじゃねぇかよ!」


「は、はぁっ!?」

 

 そのいがみ合いは放課後になった後も平然と続いていた。

 担任の先生が既に教室から退出した後、天音さんを除くすべての生徒が残っている中で甘夏と黄野くんの二人は言い合いを行っていた。


「……声が大きいんだよなぁ」


 僕は二人の声が漏れ出ないよう、クラスの中を隔離する結界を貼れる魔物を召喚しながら、自分を話題の中心とする言い合いに挟まれて複雑な気持ちを抱えながらこの場に立っていた。

 どんどんとヒートアップしていく二人の口論を前に、僕はとりあえず……うん、どうすればいいんだろう?


「このアマぁ!あまり調子に乗っているんじゃねぇぞっ!」


 だが、その会話の果てに。


「きゃっ!?」


 とうとう黄野くんが甘夏へと手を振り上げる……いや、それは駄目じゃない?


「よっと」


 僕はすぐに動き、甘夏へと振り下ろされている途中だった黄野くんの腕を掴みに行く。


「はっ!?てめぇっ!」


「……ごめんだけど、負ける気はしないよ?」


 モンスタースタンピードの時に、ある程度黄野くんの実力はわかった。

 それを考えると……僕は、あまり負ける気がしていなかった。


「この……っ!」


 掴まれている手を僕から逃れようと黄野くんが腕を振る中、力強く彼の腕を握り、一切、動かすことを許さない。


「流石に手を出すのはやりすぎだと思うかな」


「てめぇに何でそんなこと……いだだだだっ!?」


 僕は反抗的な態度を見せる黄野くんの腕を握る腕へと更に力を籠め、強引に締め上げていく。


「やりすぎなのは、良くないと思うよ?」


「……ッ!?」


「それと、別に僕のことを黄野くんがどう思っていようと……あまり、関係がないけど。一応、僕は冒険者ギルドの方から正式に依頼という形でモンスタースタンピードの制圧を頼まれているんだ。それを、あまりズルとか言われると、冒険者ギルドに対する風評被害に繋がりかねないから」


「そ、そんな話で……っ!」


「それに、さ。モンスタースタンピードを引き起こせるだけの実力があるのであれば十分、じゃないかな?一般的な冒険者の感覚で考えると。僕がそんなズルとか、する必要あるかな?」


 まぁ、僕の場合はダンジョンで得られる収益を得ていない縛りプレイしているので、割とズルする価値はあるように見えるけど……そんなことは黄野くん知らないだろうし、別にいいよね。

 本当に、ダンジョンスタンピードを起こしてみれば再生数が稼げるのだろうか?


「……クソっ、このっ!」


 僕は黄野くんの腕を掴む力を緩めたりはしていない。

 黄野くんはどんどんと表情を歪ませながら、それでも、僕への視線を送り続けている。


「僕は、黄野くんに負ける未来とか想像できないけど……それでも、高校生の冒険者としては破格の力を持っているわけだし、自分のことなんて気にせずにいればいいんじゃないかな?」


「お前ぇっ!俺を舐めるのも大概にしろよッ!」


 僕は結構真面目に、クールダウンしてもらおうと声をかけたのだが、逆効果だったのか。

 普通に黄野くんの怒りを買ってしまう。


「しねぇ!」


 そして、とうとう黄野くんは僕の方へと空いている手の平を向け、スキルを発動。


「きゃぁぁぁぁあああああああああ!?」


「お、おいっ!」


「さ、流石にやべぇだろ……」 


 炎を操るスキルより、僕の方へと炎球が放たれ、自分の顔にクリーンヒットする。


「魔力量に、差があると相手にダメージは与えれないんだよね」


「う、うそ、だろ……?」

 

 ただ、その火球は僕のことを傷つけることは出来なかった。

 服に関しても、僕は自分の魔力を流して強度を高めている。ここで服が炎に焼かれ、全裸になってしまうという事態にもならなかった。


「それでも、流石にスキルは不味いと思うよ?僕だけならいいけど……周りにも被害が出てしまうから」


「う、うるせぇ……っ!」


「んっ、一旦は出ようか?これ以上は多分、周りに迷惑かかるから……」


 これをこのまま放置していると、周りにも被害が出てしまいそう。

 僕は別に周りを守ることに特化した性能を持っているわけではない。何かあった時のことも考え、ここは一旦引かせるのが先決かな。


「ほい、行くよっ!」


「はっ!?お、おいっ!」


 黄野くんはこのまま近くの河川敷にでもポイってしてきちゃおう。うん、そうしよう。

 

「みんな、さようなら」


 僕は強引に黄野くんの体を掴み、そのまま彼の体と共に窓から教室を出ていくのだった。

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