問題

 河川敷に黄野くんを捨ててきた後、僕は桃山さんに呼ばれて冒険者ギルドの方にまでやってきていた。

 

「何でしょう?桃山さん」


 冒険者ギルド……その奥の個室にまで案内された僕は自分の前に座っている桃山さんへと疑問の声を投げかける。

 

「ある程度、私が呼んだ理由もわかっているんじゃないかしら?」


「……えぇ、まぁ」


 えっ?全然わからないんだけど……?流石にうちのクラスの事情にまで、こんなすぐ冒険者ギルドは首を突っ込んでこないよね?流石にそんなことはないよね?


「配信で全世界に対して、公表されたモンスタースタンピードを貴方が制圧する様を公表されてしまったことによる……影響についてよ」


「……それで?」


 それの……何が問題だったんだろう?

 うちのクラスのような状態に、世界全体がなっちゃった、っていう話なのかな?


「社会は今、貴方に対して疑いの視線を向けているわ……非常に残念なことにね」


 あっ……なるほど。

 

「千夜くんが魔物を操るという事実もさらに厄介で、モンスタースタンピードを自分で引き起こした!という話もあるし、何だったら千夜くんこそが神より与えられたダンジョン内に魔物を放っている、人類の悪魔である……なんていう与太話にまで繋がっているのよ」


「そ、そこまでの話に……?」


 なんか、想像以上に大きな話となっていない?


「えぇ、そうなの。まぁ、それは一部の過激な意見だけどね。あと、問題だったのは貴方がSランク冒険者でもない、ということよ。モンスタースタンピードを単独撃破。しかも、被害者の数を減らして短時間で、なんてSランク冒険者でもないと不可能。それなのに、貴方の名前はSランク冒険者どころか、Bランク冒険者にもない……高校生最高ランクがBランク冒険者である豪鬼くんなんだからね」


「……むむぅ」


 僕はCランク冒険者。

 そのレベルの人間がモンスタースタンピードを倒すなんておかしな話だし、そもそもとして冒険者ギルドの方もそのレベルの奴にするな、っていう話なのね。


「そろそろ、自分もランクを上げろ、っていうことでしょうか?」


「それも当然あるのだけど……まず、これを言っておきたくて」


「……?」


「私を始め、ここの冒険者ギルドは貴方に対して全員が感謝の意を持っているわ。私たちは千夜くんの力により、この街全体が助かっていることを知っているわ。貴方がいなかったら、誰も入れないような死んだダンジョンになってもおかしくなかったわ」


 一部のダンジョンでは、モンスタースタンピードの幕引き降ろすのが不可能と考えられているところもあり、そこでは、一階層の段階で最下層にいるような強力な魔物が待ち構えている地獄の状態になってしまっている。

 そこに入れるのはもはやSランク冒険者のみ。

 活用できない、死んだダンジョンになっているところも多い。


「私たちは貴方の味方よ。それだけは言っておきたかったの」


「……ありがとう、ございます」


「それでだけど、冒険者ギルド全体としては千夜くんに対して、本気でランクを上げて欲しいと考えているわ。これからも色々とお願いしたいのだけど……そのために、ちゃんとした立場を求めたいのよ。これまでは暗黙の了解。見ないことにして頼んでいたけど、ここまで注目を浴びてしまうとどうしてもね」


「そうですね……この街のことも考えると、僕もちゃんと自分のランクを上げるべきですかね」


「そうしてくれると助かるわ」


「それじゃあ、ランクを上げるための試験の用意をお願いします」


 もう、面倒だからと言って試験から逃げるのは辞めるべき時、ということなんだろう。きっと。


「それじゃあ、Sランク冒険者となるための試験を課すから……時間がある時を教えてくれないかしら?ここじゃ無理だから、東京の方にまで上京してほしいのよ」


「えっ……?いきなり?」


 まずはBランク冒険者になるための試験から受けることになるのかな?なんてことを思っていた僕は、桃山さんの口から出てきたSランク冒険者として認められるようになる試験を受けるために上京してほしいとの言葉に、困惑の声を漏らすのだった。

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