東京

 自分が冒険者としての資格を上げるための動き出す決意を固めた次の日の朝、僕は早速、東京の方へとやってきていた。

 

「これがヒートアイランド現象……あっつぅー」


 Sランク冒険者になるための試験。

 油断できない戦いになるだろうということで、今の僕はフル装備で東京へとやってきていた。

 いつもの仮面に着ている衣装は私服ではなく、伝統ある神道に接する身に相応しい民族衣装である和服……となっているわけだけど、この和服がヒートアイランド現象の起こる東京では地獄と言えるくらいの暑さを作り出していた。

 それはもうびっくりするくらいに暑かった。


「……いいか」


 暑さに耐えかねた僕は人通りの多い東京の街並みの中で、冷気を生み出す魔物をこの場に召喚する。

 自分の仮面は周りから己の存在を知覚されないようにする、という効果を持っている。

 流石に街中で魔物を出すのはどうなの?とは思ったものの、どうせ見えやしないしいいや、という結論にたどり着いた僕は遠慮なく魔物を召喚して涼む。


「……?」


「えっ、なんか、涼しい……?」


「はっ!?えっ……?風、つめたっ」


 僕が召喚した魔物の生み出す冷気より、周りの人を驚かせてしまっているが……これはもう気にしない。

 気にしたら負けだよね。きっと。


「……ここ、かな?」


 魔物のおかげで快適に移動できた僕は一つのダンジョンの前で止まる。

 僕の前にあるのは、平均的なダンジョンの階層が五十階層くらいまでの中、300階層を超えてもまるで最下層へとたどり着かない真なる魔境と言える日本屈指のダンジョンである新宿ダンジョンだった。

 単独で新宿ダンジョンの320階層に到達し、そこで魔物を百体狩る。

 それこそが昨日の夜、メールで伝えられた僕がSランク冒険者になるために課せられた試験だった。


「行くか」


 流石は東京。

 ゆるのきのダンジョンとはまるで比べられないほどに多くの人が続々と新宿ダンジョンに入っていく中で、僕も迷いなくダンジョンの中へと入っていく。


「こんなところで何が出来るのよ……」


 進んでも、進んでも人の波しかない新宿ダンジョンの一階層に眉をひそめながら、ひんやり涼しいダンジョンの中をどんどんと天井伝いで進んでいく。

 天井に四つん這いで進んでいる僕は下にいる冒険者たちがぎゅうぎゅうでまともに動けていない中で、二階層へと到達する。


「……ここもかいな」


 ただ、二階層の方も普通に人通りが多く、そのまま四つん這い移動は継続。

 自分の手指を食い込ませて、天井を這い回っていく。


「よっと」

 

 そんな移動は結局のところ、三階層まで続ける必要があった。


「あんなんで何が出来るのかね?もう、諦めなよ」

 

 あれだけ人いたら、確実に戦闘どころではない……いきなり魔物が生まれたらどうするんだろう?

 何て疑問を抱えながら、僕は一気にダンジョンの中を進んでいく。


「いけぇっ!青龍!」


 そんな僕の足になるのは召喚した巨大な青き龍である。

 僕の移動手段は専ら魔物。リニアくらいの速度で駆け抜ける魔物に乗って、僕は移動することが多かった。


「ここら辺でいいよ」


 そんな青龍の力により、僕は一気にダンジョン200階層にまでやってくる。

 ここまでの道中に現れる魔物は青龍の突進でワンパン……ただ、ここら辺からはそうもいかなくなっていきそうな雰囲気を感じたので、降りるべきと判断したのだ。


「よし、始めようか……!」


 これから僕はまず、320階層に向かっていくことになるわけだが……その前にやらなければならないことがあった。

 僕はここまで両手で抱えていたカメラ。

 いつも、配信に使っている参拝客から貰った配信用の自動追尾式のカメラを起動する。

 Sランク冒険者になるための試験の模様を配信で、全世界に公開する許可は既に冒険者ギルドから貰っている。

 一時間前から告知していたSランク冒険者になるための試験配信を開始するため、僕は端末を操作し、配信を始める準備を進めていく。


「えっ……?なんか、多くない?」


 そして、そんな作業の中で僕は、これまで見たことのないような配信の待機準備人数を見て、思わず困惑の声を漏らすのだった。

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