アンチコメ

 自分の配信の待機人数。

 それは既に十万人を突破して、突破して……。


「十万人っ!?」


 僕は自分の目の前に表示されているディスプレイを見て、驚愕の声を心の底から上げる。


「な、何でっ!?」


 一体、僕が何をしたというのか?

 十万人とか、これまで数年がかりで活動してきた僕の配信者歴の中で見に来てくれていたすべての視聴者の数をぶっちぎるよっ。


「と、とりあえず配信しないと……っ!」


 僕は慣れた手つきで配信開始をスタートさせる。


「はーい、どうも、こんにちは。高校生冒険者のカンヌシだよー」


 そして、僕はカメラの前で特に面白味もない自己紹介を簡潔に告げる。


コメント

・おっ?世紀の詐欺師のお出ましか?

・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

・貴方がダンジョンに魔物を放った、って本当ですか?

・おぉ、本当にモンスタースタンピードを沈めた少年のチャンネルだった。


 始まった配信。

 それと共に、コメント欄はこれまで見たことないくらいに爆速で動き始める。


「……( ´・ω・`)」


 ただ、そのコメントの多くはいわゆるアンチコメ、と言われるような誹謗中傷ばかりであった。


「……何でそんなこと言うの?」


 一体、僕が何をしたというのか……。


コメント

・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

・おっと、その悲しそうな顔は地味に来るな……。

・そんな綺麗なしょんぼり顔出来るのものなの?

・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね


 僕は別に悪いことなんてしていないというのに。


「まぁ、良いや」


 とはいえ、何もしていない無辜の人に石を投げるのが人類……どんな人間も存在するネットなんだから、気にせずに行こう。

 かのキリストとて、一度は処刑されたのだ。

 世界のすべてを味方につけるなんて無理だよね。


コメント

・切り替えはやっ!?

・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

・悪辣外道。モンスタースタンピードを利用して、自分の名前を上げようなんて許されない。

・貴方がダンジョンに魔物を放った、って本当ですか?

・一気に表情変わるじゃん……百面相過ぎてウケるけど、なんか元の顔が綺麗だからちょっと心が揺さぶられる

・なんてこんなのを岸民党は放置しているんだっ!


 そんなことよりも、配信を進めていかないと。

 チラホラ、ちゃんと僕のことを見てくれている人もいるからね。


「今日の配信はというと、タイトルにある通り、冒険者ギルドのSランク冒険者になるための試験の模様をお伝えしようと思うよ」


 僕は淡々と今日、やっていくことをカメラの前で説明していく。


「自分に課せられた試験はここ、新宿ダンジョンの320階層でソロによって魔物を百体狩ること。配信では、今いる200階層から320階層にまで行き、百体の魔物を狩るところを見せたいと思うよ」


 僕がこんな風に企画の説明をしていた中で。


「きしゃぁぁぁぁぁぁああああああああああ!」


 いきなり自分のすぐ後ろから口をめいっぱい広げた大蛇の魔物が急に出現し、配信の邪魔をしてくる。


「うるさい、今、企画説明中だから」


 口が閉じられる。

 その直前に僕は足を振り上げ、大蛇の口内を蹴り飛ばして上顎を消滅させる。


「ほいっ」


 そして、そのまま後ろを向いて拳を一振り。

 全力で振りぬかれた僕の拳の風圧により、大蛇の魔物がこの場から消滅する。


「ちなみに今のは自分の存在を周りの世界に同化させて相手に悟られないように敵へと迫るタイプの敵でしたね」

 

 これで良し。

 しっかりと魔物を倒し終えた僕は視線を再度、カメラの方に戻す。


「このレベルの偽装になってくると、相手がいるかどうかの判別はもう勘しかないので、頑張りましょう」


 自分の気配を消すとか、無音にするとか、それくらいだったらまだ簡単に見破れるけど、気配を周りと同化させるばかりか体温や音まで周りと一体化されるとどうしようもない。

 これを確実に看破するのはもう不可能の領域に近い。


「まぁ、そんな余談は置いておいて……」


 ここら辺で蛇については良いだろう。

 僕はカメラの前で本題の方に戻っていくのだった。



コメント

・何が起きた!?

・えっ?

・はっ……?

・なんか魔物が爆散したんだが

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