格の違い

 現在、新宿ダンジョンの最高到達階層は342階層。


「320階層到着っ!」


 そこよりはだいぶ上層で、魔物のレベルも下がる320階層へと僕は到着していた。


「まだまだ最高到達階層は遠いけど……今日の朝、地元を出発して東京に到着。それからソロでここまで来たとするなら上出来だよね」


 最高到達階層ではないとはいえ、結構十分なことだよね?


コメント

・いや……えっ?そんな、楽なところじゃ?

・さすがに一時間で100階層踏破とかできるわけなくて草。もっと現実的な設定にしろよ

・前にAランク冒険者パーティーがそこに入って死にかけていたよな?

・こんなん全部ウソだろ。明らかに魔物のレベルが低い

・嘘が適当過ぎ……


 自分の評価が上がっていることを望む……ここまで、コメント欄も見ずに魔物と協力しながら、一時間程度で100階層以上を駆け抜けてきた僕はようやくになってコメント欄の方を見ようと、視線をデバイスの方に送ろうとするのだが……。


「ガァァァァァァアアアアアアアアアアっ!」


「おっと」


 その前に魔物が僕の元へと襲い掛かってきたせいで、その魔物へと視線を向けざるを得なくなってしまう。


「……何の魔物かは知らないや」


 自分の前で地面を飛び、そのまま突撃してくる魔物は巨大な犬の魔物……残念ながら、僕は名前をご存知でなかった犬の魔物に向かってアッパー。

 拳一つでその魔物は肉片となって、天井へとへばりつく。


コメント

・ヘルウォルフをワンパン!?

・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

・ヘルウォルフをワンパンとはたまげたなぁ……

・Sランク冒険者の配信を見に来たか?

 

 これで終わり……と言いたいところだったのだが、次々と僕の元へと魔物が襲い掛かってくる。

 あの犬の魔物だけではなく、遠くから魔法を放ってくる骸骨だったり、天井で飛び回りながらこちらを超音波で攻撃してくる小さな羽虫だったり、だったり。

 多種多様な魔物が、大量に自分の元へと押し寄せてきていた。


「なるほど、そういうタイプね」


 ダンジョンの階層にはいくつかのパターンが存在する。

 出てくるのがボスと呼ばれる強力な魔物が一体だけだったり、魔物というよりも内部構造の複雑性や致死性の強力な罠が脅威だったり、階層ごとに特色、パターンが変わってくる。

 そのパターンの中に大量の魔物が絶え間なく襲い掛かってくるというものがある。 

 恐らく、新宿ダンジョンの320階層はそのタイプだ。

 無限に、大量の魔物が押し寄せてくるのだろう。


「さてはて……どうしたものか」


 正直に言うと、僕の手元にいる魔物たちはあくまで、自分が調伏した存在でしかない。

 つまりは、その存在として、全員が自分よりも弱いのだ。

 そして、ここ、320階層の魔物たちよりも強い魔物というのはあまりいない……50階層までしかないゆるのきのダンジョンには当然、いるわけもないからね。

 

「流石に速攻で殺されるような存在を呼んでも仕方ないよね……付喪ノ神よ」


 僕は一枚の札を焼き、手元に一振りの刀を取り出す。

 この刀は付喪神。

 うちの神社のダンジョンで自分が調伏した魔物の一体である。


「食い散らかせよ、黄龍」


 そして、更に調伏した魔物を一体。

 僕は黄金に輝く一体の龍が一部を顕現させ、このダンジョンの中で大暴れさせる。


「真正面からの、力押しといこうか」


 相手が数で来るというのなら、ここはいつものように数で……ではなく、今回は質で行ってみよう。

 自分の手に良くなじむ付喪神の刀を持ち、黄金の龍を背負う僕は自分へと次々に襲い掛かってくる魔物たちを一蹴していく。


コメント

・圧倒的すぎる……こんな、こんな320階層の魔物がゴミのように

・美しい、ただひとえに芸術品のよう

・嘘だろ?

・あまりにも強すぎる

・これは……これはこれで最高過ぎる映像作品だな

 

 その魔物たちは、僕の相手ではなかった。


「このレベルで魔物が湧いてくるなら、案外楽かもね」


 Sランク冒険者になるための試験。

 魔物を百体狩れというのは割と鬼畜では?と思っていたけど、うまく行けば割と楽にいけるかも。

 そんな楽観な考えと共に、僕は刀を振るい続けた。

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