テレビ

 結局のところ、昨日一日だけでは百体の魔物を倒しきることは出来なかった。

 最初は順調だったのだが、途中から周りよりもはるかにレベルの高い魔物が一体ずつ僕の前に現れるばかりであり、そのせいで討伐数を伸ばせなかったのだ。

 元々、ダンジョンへと潜り出したのが夕方ごろで夜が来るのが早かったために仕方なく、僕は諦めて地上の方へと戻り、始めてやってきた東京のサ〇ゼに行って、その日を終えた。……僕の地元にはサ〇ゼがないからね。

 初めてのサ〇ゼはかなり良かった。満足度高かった。


「ふわぁ……」


 野宿しようとしていた自分に代わって、桃山さんが予約してくれていた東京のホテルで起きた僕はベッドから這い出て、ホテルの中に置いてあるテレビをつける。


『ダンジョン評論家の河野さんは今、話題の配信者。カンヌシさんについてどう思いますか?』


『どう思うも何もないな。冒険者ギルドは何を考えているのか、とため息を吐くしかない。勝手にSランク冒険者の試験を受けているなどという妄言を吐いている男を放置しているのか。ギルドは個人情報の保護を掲げ、どんな人がどの試験を受けているかの情報を非公開にしているらしいが……嘘の情報くらいにはしっかりと対応しなければ、冒険者ギルドの定めるランクへの信頼を失うぞ』


『冒険者ギルドで発行されている冒険者カードには当人のランクが書いてありますが、今、次のランクに上がるための試験を受ける許可を貰えるレベルにいるのかはこちら側でわかりませんからね』


 そのテレビでは今、僕についての話が議論されていた。


『それに、そもそもとして夜になったから帰る!なんてこと、冒険者がするわけないでしょう。過去の配信もしっかりと見てきますが、未だに発見報告のない新種の魔物が多数出現するダンジョンで戦ってい様子であったり、』


「夜は寝るものでしょ」

 

 何を言っているのだ、この人は。

 寝ないとパフォーマンスは落ちてしまうというのに……。


『それでは、現在日本最強と呼び声高い牧野蓮夜さんはどう思いますか?』


『そうですね……まず、自分から見て、あそこは320階層だと思いますよ』


『そうなんですか?』


『はい。出てくる魔物は完全に一致します。その性質もね。些末だからと、自分たちが報告していないところまでしっかりと出てきますからね。あの光景を作るのは無理でしょう。ただ、だとすると、強すぎますね。自分のパーティーに入っても大活躍。世界最強格。Sランク冒険者の中でも上澄みでしょう……そんな人物が、これまで無名でいた。その事実は信じられませんね』


「……わるぅございましたね。うちがド辺境で」


『あまりにも、与えてくる情報が、事実だとは思えない要素が……あまりにも、大きな情報過ぎます』


「もういいや」


 一度、テレビをつけた僕はすぐにテレビを消してしまう。


「……それにしても、こんなに有名になるなんてなぁ」


 テレビでここまで大々的に取り上げられるほど、自分が有名になるとは思っていなかった……どうやら、この世界にいる冒険者のレベルは僕の想定よりも遥かに低かったみたいだった。

 まさか、自分がこの世界でも圧倒的な上澄みだとは思わなかったよね。

 片田舎の神主……馬鹿にならないものだね。

 ……。

 …………。

 それにしても、出雲大社のところとかは今、何をしているのだろうか……?神主としての、力を受け継ぐものはいないのだろうか?


「そんなことより、今日こそはSランク冒険者にならないと」


 今、良くも悪くも僕は注目を浴びており、配信にやってきてくれている人たちもうなぎのぼり……。

 もう収益化が通りそうな勢いだった。


「へへっ」

 

 これで僕も極貧生活からは脱却だ。


「ふんふんふーん」


 自分の生活が変わることを予期する僕は、今のこの流れを失わないようにするため、今日も配信の為にダンジョンへと向かうのだった。

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