帰宅

 自分が頼れそうな神様は三柱ほど。

 まずは自分の中に封印している荒ぶる神であるわけだけど……地上で開放するのは不味い。そう何度も頻繁に封印を緩めるわけにもいかないし、長時間になるわけにもいかない。

 次に自分の神社と縁があるのは須比智邇神様になるわけだが、その所在に関しては僕の方があまり理解出来ていない。

 何故か、甘夏の方から気配を感じることもあるし、自分のいないときにその神様が居た気配を感じたりというのがあったけど……とりあえず、今の僕が頼れるような御方ではない。

 となると、最後に残っているのはあと一柱。

 あの神さまくらいだ。


「……言葉を、交わしたことはないけど、大丈夫だろうか」


 その神さまというのは、幼少期の僕が生贄として捧げられた先にいた神さまだ。

 自分の神社の主神。

 僕たちの神社は荒ぶる神を封じるのと共に、その神さまに祈りを捧げてきたところなのだ。


「天之御中主神様」


 その神さまの名をぽつりとつぶやいた僕は自分の神社へと降り立つ。


「……既に、退避した後か」


 神社のところには参拝客も、甘夏たちもいなかった。

 全員、今回の件を受けて早々に避難してくれたのだろう。

 

「さて、と」


 そんな神社の中を進み、僕はダンジョンの入り口の方へと向かって行く。

 神社のダンジョン。

 そこの最下層に、おそらくではあるけど、天之御中主神がいるはずだ。

 荒ぶる神の力をお借りし、僕はこの神社のダンジョンの最下層まで駆け抜けてしまうつもりだった。


「……ァ?」


 そんな思惑と共にダンジョンへと入ろうとした僕は、その途中で足を止めて自分の視線を少し上の方に持っていく。


「おや、気づかれますか」


 その瞬間、視界の端が揺れ動き、そこから人理教特有の格好をした男が一人、現れる。


「完全に姿を隠す技術を使っていたはずなのですが……はてはて、何が上手くいかなったのでしょうか?実に不思議です。それに、ちょっとばかり不満ですよ。自信作だったというのに」


「ずいぶんとお喋りなんですね」


 だが、人理教特有の声ではなく、明確に男だとわかる声を発しているその人物へと僕は声をかけるのだった。

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