実力

 基本的に冒険者の戦闘スタイルというのは、魔物を倒せば倒すほどに得ることの出来る魔力を増やして身体能力と自己再生能力を元に、各個人が生まれながらに持つスキルを活用して戦っていくことになる。

 それは僕も変わらない。

 僕の持つ力の一つは、異形の者を鎮め、調伏させること。

 それを最大限に利用するのが僕の戦い方だ。


「ガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 魔物の一体が自分たちの方へと迫り。


「きゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああ」


 一人の女子生徒が悲鳴を上げる。

 そんな中で、僕が己の手に持つのは一枚の札であった。

 異形の者。

 その範囲は、魔物も同様である。


「行け」


 僕が言葉を漏らすと共に、一枚の札が青い炎に包まれて消えていく。


『ァァァァァァアアアアアアアアアアアア』

 

 その代わりに、僕の背後から一つの怪物がその姿を顕現させる。

 背丈は八尺ほど。

 黒く長い髪によって顔並びに白装束の多くを隠す、その存在は長い腕にそれから伸びる禍々しい爪を今、まさに自分たちへと襲い掛かってこようとしていた魔物を斬り裂いてみせる。


「えっ……?」


 数には数を。

 僕は更に札を取りだしていく。

 

『アオーンッ!!!』


『アオーンッ!!!』


『アオーンッ!!!』


 札が焼き切れると共に三つの頭を持つ巨大な番犬が。


「けぇぇぇぇぇええええええええええええええん」


 札が焼き切れると共に虹色の翼を持つ巨大な鳥が。


「おぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」


 札が焼き切れると共に剛毛に身を包む巨大な猿人が。

 僕がこの場に呼び出した者たちが次々と魔物たちへと攻撃を仕掛けていく。

 同士討ちだ。

 僕が呼び出したもの達は全て、ダンジョン内で自分が調伏させて支配した魔物たちだ。

 僕は魔物相手に、魔物をぶつけていた。

 今、呼び出したのは僕の手持ちの中でもかなり強めに相当するものたちだ。


「……他も集まってきているな」


 今、呼び出した奴らよりも実力は劣るその他、多くの調伏させた魔物たちは今、ダンジョン内で取り残されていた冒険者たちを助け、そのまま地上まで護衛させていた。

 僕がダンジョンスタンビートを抑えるのに向いているのはこれが理由。

 数の暴力で人を守り、スタンビートに抗えるから。

 そんな、人を守るために遣わせていた魔物たちもその役目を終え、どんどんと自分の元に戻ってきている。

 魔物と戦いながら。


「ん、あと少し」


 モンスタースタンビートのボス。

 このスタンビートを率いていたトップは既に数百体がかりの魔物でなぶり殺しにしている。

 ここからはもう階層から移動することは出来ない。

 大量の魔物を全滅にさせるだけでいい……というか、もう勝手に自分が調伏させている魔物たちが倒していってくれるので、やることはもうない。


「これで、終わり。ちゃんと無傷で終わらせたでしょ?あとは消化試合。それでも、今日のところはここで殲滅し終わった後に地上の方へと戻ってくれると助かるかな……この後、確認作業に入るから」


 全てのやることが終わったと判断した僕は甘夏たちの方へと視線を向け、口を開くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る