救援
ゆるのきのダンジョン。
そこへと訪れた僕はすぐさまモンスタースタンピードの鎮圧のため、動き始めていた。
ダンジョン内の魔物を次々と倒すと共に、魔物に襲われて命を落としかけていた人たちも順番に助けて回っていた。
「……いるじゃん、甘夏もっ」
そんな中で、甘夏がこのダンジョンの中にいることに気づいた僕は真っすぐに彼女のいる場所へと向かっていた。
「いた」
爆速で駆け抜けてきた僕はすぐに魔物へと囲まれている甘夏。
それと、一緒に来ていたクラスメートたちの姿もあった。
ここから見るに、その状況としては最悪。
大量の魔物に囲まれている彼女たちは敗北の危機に瀕しているような状況にあるような様子であり、甘夏は今まさに目の前へと立つ魔物の一撃を食らい、その身に致命傷を食らいそうになっているような状況だった。
その、すんでのところで。
「い、いや……っ」
「僕の幼馴染に何をしているの?」
僕は間に合った。
甘夏に振り下ろされる寸前だった凶悪な爪が光る魔物の腕を掴み取り、そして、そのまま強引に腕力だけで握りつぶす。
「ふぅー」
一番危機に瀕していたのは周りと比べて、かなり前に出ていた甘夏だったが、他の面々も別に安泰というわけじゃなかった。
僕は懐から一振りのナイフを取り出し、そのまま流れるように周りにいた魔物たちを全員、細切れにしてみせる。
「大丈夫だった?」
僅かばかり、返り血を浴びてしまった僕はそのままの姿のまま、自分以上に返り血やら汗やらでぐちょぐちょになっている甘夏の方へと視線を向けて、口を開く。
「せんっ!」
「ちょいっ!」
そして、僕の姿を見るなり、いきなり自分の本名を口にしようとしていた甘夏の口を強引に塞ぎに行く。
「今は配信中なんでしょ?あまり、僕の本名を大きな声で叫ぼうとしないで。一応、僕にもプライベートがあるんだよ?」
「た、確かにそうね……ごめんなさい」
「わかってくれたなら、それでいいよ。それで?大きな怪我とかは───」
僕が甘夏へと話しかけていた中。
「……ッ!?おま、その声っ!」
それを遮り、ちょっと強引な形で黄野くんが声を上げる。
「ま、まさかっ!」
「同じクラスメートで……あー、プリステスの幼馴染だよ。お願いだから、本名は呼ばないでね?」
甘夏同様、僕の本名を口へとしそうになっていた黄野くんに釘を刺していく。
「別にそれはあとで良くないかな?今はダンジョンスタンピードをどうにかするのが先だから」
「す、スタンピードをどうにかする?そんなこと、そんなこと、出来るわけないだろうっ!スタンピードの鎮圧が単独で出来るのなんて、Aランク以上でなければ……」
「これまで、ゆるのきのダンジョンで起きていたダンジョンスタンピードを食い止めていたのは僕だよ。既に何回か経験していることだから、そこまで心配してもらうようなことにはならないよ」
僕は食ってかかってくる黄野くんの言葉に淡々と答えていく。
「ふ、二人で言い争いをしている場合じゃないよっ!」
「ん?」
「何だよっ」
そんな中、一人の女子が慌てた様子で口を開き、声を上げる。
「こ、こっちの方に大量の魔物が迫ってきているんだよっ!こ、ここから急いで逃げないとっ!」
「ん?あぁ、別にそれは慌てなくていいよ。そうなっているのは、僕がここに魔物たちをおびき寄せているせいだから」
「「「はっ……?」」」
「モンスタースタンピードってさ、何で魔物たちが上に上に向かって行っていると思う?僕は前から不思議だったんだよね。魔物たちは何を目指して、階層を移動するのか。階層を下から、上に駆け上がっていくのか、って。それで調べてみると、ちょっと想定外の結果で、魔物たちは何か、特別な意図をもって動いているわけじゃなかったんだよね」
自分が何をしているのか。
それを説明するため、僕は大前提のところから話し始めていく。
「モンスタースタンピードを引き起こす特殊な魔物により、階層の行き来が自由になった魔物たちはその後、魔物たちをおびき寄せる強力なフェロモンのようなものを放っているこれまた特殊な魔物に向かって一直線に突撃していくんだよ。魔物たちが上に向かって行くのは、周りを引き連れる特殊なフェロモン持ちの魔物を追いかけているから……逆に言うと、このフェロモン持ちの魔物が上を目指すのではなく、下を目指していたのなら、逆のことが起きるってわけなんだよね」
まだ、大量の魔物たちが自分たちの前に現れるまでには時間がある。
「んで、今。僕はその特殊なフェロモン持ちの魔物を持ってきているんだ」
僕は懐から、本当に小さな蝶の魔物を取り出し、周りに見せる。
「現在において、この場こそがモンスタースタンピードの目的地。故に、大量の魔物が押し寄せてきているんだよ」
「おまっ、何をしてやがるっ!?それで、俺が死んだら───」
「ガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
僕の説明を聞き、黄野くんが怒りの声をあげた───ちょうどそのタイミングで。
魔物が姿を現し、大きな咆哮を上げる。
「大丈夫、僕に任せて?」
それを受け、僕は黄野くんから視線を外して、魔物の方へと。
「ちゃんと、無傷で返すから」
そして、僕は懐から一枚の札を取り出すのだった。
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