モンスタースタンピード
朝、いきなり黄野さんに因縁をつけられた僕であるが、その後は何事もなく高校から帰ることが出来ていた。
「ふんふんふーん」
そんな僕はさっさと自分の神社の方に帰ってきていた。
父親が言うにはその起源として今から1600年ほど前。遥か昔の時より、神様との盟約に従って建てられた神社。
それがうちの神社であるそうだ。
特徴としては、まるで人間の手入れがされていない荒れ果てた、されとて何処か神聖的な印象も与えてくる山の上に建てられていること。
それと、樹齢1600年を誇る大樹をご神木としていることや、立派で綺麗な社殿があることなどがあげられるかな。
割とよさげな神社だと思うけど……あまり参拝者は来ない。もう、それはそれは全然来ない。悲しい。僕は常に貧乏生活。懐が寂しい。
「懐かしいなぁ……」
なんてことを考えながらも、僕は社殿の内部の清掃を進めていく。
そんな僕が今、やってきたのは社殿の最奥にある広い、本当に広い空間である。
特に明かり等はなく、ただただ暗がりだけが広がっているこの空間にあるのは、中央に置かれる透明な一畳ばかりの小さな空間……僕が0歳から6歳まで生きてきた場所だ。
「まぁ、ここには用ないかな」
実に懐かしい場所であるが、それはそれとしてここを掃除する必要はない。
この馬鹿みたいにデカい空間を掃除する必要はない……間違えてこの部屋へと入るための扉を開けてしまった僕はそれを閉め、掃除へと戻っていく。
「ん?電話?」
掃除へと戻ろうとしたとき、自分のスマホが鳴り響き始める。
スマホを取り出して見れば、スマホは冒険者ギルドからの電話が来ていることを指し示していた。
「はい、もしもし」
それで自分が電話に出ると。
「あっ!千夜くんかしら?」
その相手は桃山さんだった。
基本的に、冒険者ギルド内における僕との連絡係は桃山さんだ。何かあると、彼女の方から連絡がやってくる。
「はい。そうですよ」
「緊急事態よ。ゆるのきのダンジョン内部でモンスタースタンピードが起きているわ」
モンスタースタンピード。
それは、階層ごとに出現する魔物のレベルが決まられて自分が出現した階層から上にも、下にも行けないようになっている中で、その決まりを無視して魔物たちが自由に階層を飛び越えて移動し始めることを言う。
これが起こると、元々ダンジョンに潜っていた人たちが自分のレベルを超える魔物と出会い、無為に命を落としてしまうことになる。
故に早急な対応が必要になるのだ。
とはいえ、今のところ、創作の話だと頻繁に起こり、常に危惧されている魔物たちが地上にまで出てきたような事態には発展したことはないので、そこまでの事態というわけでもないけど。
冒険者なんて、死のリスクがあることは前提となっている職業であるわけだし。
「わかりました。いつも通りに鎮圧して来ればいいんですね?」
「えぇ、そうよ」
モンスタースタンピードの鎮圧方法は簡単だ。
階層を超えてやってきた魔物たちを殲滅すると共に、そのモンスタースタンピードを率いている特殊な魔物を倒せばいい。
「今回も一人ですか?」
ゆるのきのダンジョンは、自分の暮らしている市にあるたった二つのダンジョンのうちの一つ。
しかも、市にあるダンジョンのうち一つは僕しか潜っていない神社のダンジョンであり、実質的には市唯一のダンジョンだ。
「えぇ、そう、なっちゃうわね」
その市にとって大事であるはずのダンジョンでモンスタースタンピードが起こった際、その解決のために動くのは、基本的に僕一人だ。
都会のところであれば、大量の冒険者が事態の解決に動くんだろうけど……僕が住んでいるような田舎だと中々モンスタースタンピードに対抗できる冒険者、っていうのもいないらしい。
周りの冒険者のレベル感がわからないから何とも言えないんだけどね。
とはいえ、僕は自分のスキル的にもモンスタースタンピードの鎮圧向けな性能を持っている。
自分に頼りたくなるのはわかるところもある。
「わかりました。お任せください」
そして、それに答えるのが長年、この街に根付く神社を継ぐもの。
僕は快く桃山さんの言葉に頷く。
「ありがとう。いつも、ごめんなさいね……それで、報酬は」
「いつも通り要りませんよ。それが家の決まりなので」
「……本当に、ごめんなさいね。いつでも払う準備はあるから、いつでも言ってちょうだいね?」
「本当に大丈夫ですから。それでは、僕は早速準備に取り掛かるので失礼します」
「わかったわ。お願いね」
「はーい」
僕は桃山さんとの電話を切り、すぐに戦闘出来るように着替えていく。
とはいえ、僕の戦衣装はいつもの私服に少しの武装を持ち、狐のお面をつけるだけだけど。
さっさと準備を終えた僕は迷いなく神社を飛び出し、そのまま跳躍。
山から一気にゆるのきのダンジョンへと向かっていく。
その途中で。
「……って、うん?そういえば、今日は甘夏たちが放課後にゆるのきのダンジョンに潜るっていう話をしていたよね?」
僕はふと、今日の学校であった話を思い出す。
「大丈夫なのかな?……Bランク冒険者らしい黄野さんもいるから大丈夫かな?」
僕はBランク冒険者の強さの基準とかほとんどわからないけど……。
「……」
ほんの気持ちばかり、急ぎながら僕は向かっていくのだった。
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