大会議室

 首相官邸から僅かに移動して、東京都渋谷区にある神社本庁……その地下へと夏瑠総理と共に僕はやってきていた。

 神社本庁の地下には表には明かされていない秘密の空間が存在しているのだ。

 その空間の一角にある大会議室。


「お久しぶりです。一条殿」


「おぉ……久しぶりですね、元気にしておりましたか?」


「はい、もちろん」


 そこにいるのは神社本庁の傘下にある神社の神主はもちろん。出雲大新宮などの神社本庁との被包括関係に属さない単立宗教法人の神主たちまで集合していた。

 本当に、日本の伝統ある宗教。

 神道のすべてが今、ここに集まっていると言ってもそこまで過言じゃないと思う。

 僕のように、こういう会合には顔を見せることのない人たちも今日ばかりはしっかりとこの場にいた。


「本日は宮司の皆さまがこうして、集まってくれましたことに対して、まずはお礼の言葉を述べさせていただきたい」


 僕が周りを見渡していた中で、夏瑠総理はこの場全体に届くよう言葉を話していく。


「……あぁ」


 そっか、結構前に神社の長の役職名は神主から宮司に変わったのか。

 未だにお古お古の価値観を引きずっている僕の神社では、未だに神社の長の役職のことを神主って言っていたわ。


「それでは、皆さま。お席にお座りください」


 なんてことを考える僕はとりあえず、夏瑠総理の言葉に従っていく。


「今日集まってもらったのは他でもない……これまで、政府に対しても、小出しにされていたダンジョンに関する情報。それを、しっかりと共有してほしいと思ったからであります。ここまでの大事件が起きてなお、伝統の名でダンジョンに関する重要情報を秘匿し続けることは難しいと考えて欲しいところですな」


 全員が会議室に置かれた円卓を囲むようにして座り、議論が始まった中で。


「……まず、ダンジョンについて、どういった認識を持っているのか。それを、神々廻殿の口から聞きたいですね」


 一番最初に触れられたのは自分のところだった。


「自分ですか?」


「えぇ……そうです」


「そうですな。私のところからもお願いしたい」


「是非とも聞きたいところですね」


「別に構いませんが……」


 お願いされてダンジョンについて僕が語る訳であるだが、そこまでの情報量があるわけじゃない。

 神々は有していた力の多くを喪失しつつある状況にあること。

 その力が空気中に散布され、ダンジョンという形になったこと。

 根本的に、神々が有していた力を喪失しつつある理由は人々の信仰心が著しく低下していること。

 人の信仰心の有無によって、神々がその存在の格を下げることはないが、この信仰心がなければ高次元の存在である神々は人の世に干渉出来ないこと。

 自分が語ったのはここら辺の、神主であれば、知っているようなそんな基本的なことである。


「僕としては、自分以外の神主の皆さまに対して、神社の現状を聞きたいのですが……」


「また、先に聞いてしまって申し訳ない……まだ、いらっしゃるのか?」


「いらっしゃいますよ。とはいえ、その在り方は大きく変わってしまいましたが。荒ぶる神に関しては、これまで通り人柱の中に。神さまは数年ほど前にその身を実体化させて現実の世に降ろすことは出来なくなりましたが、色濃くその力はしっかりと残っていますよ」


 うちの神社は、神々の全盛期の時と、ほぼ変わらない姿を維持出来ている。


「そこなのですよ。我々の神社は既に……江戸の時代にはもう既にいらっしゃなかった。当然、残っていますがね。我々は、実際にいらっしゃる神様より、ダンジョンについて、何か、お聞きになったことがないかを知りたいのです」


「それに答えるなら、なしです。あくまで神々は干渉するのみ。その姿がどっちに転ぶかもわかりません。ダンジョン関連についても、さほど興味などないでしょう。人の世にどれだけ被害が出ようとも。お分かりでしょう?」


「……」


「あくまで、上位存在が人の想いの力を受け、人の世に干渉出来るようになっただけなのです。想いの力を受け、人の世に姿を見せる神々がその圧倒的な存在感より、荒ぶるこの世界そのものの厄災の力をほぼ無自覚に受けとめていらっしゃった。それだけとも言えるのです」


 だからこそ、人は神に祈るのだ。

 この世界がもたらす厄災の力を受け止め、減らしてくれることを願う。


「これまで受け止めてくれた世界の厄災。それに、我々が今、ようやく己たちだけで向かい合っている……それが、ダンジョンである。そんなことも言えるのです……とはいえ、とっくの昔に神々と世界の厄災の力は一体化しておられるそうですが……まぁ、ここら辺の深いところは自分もわかりかねますね。何処か、知っておられるところはありますか?」


「いや、ないでしょうな……出雲のところはどうでしょう?」

 

「我々に伝え残されている情報は今、神々廻殿が語ってくれたところまでです」


 神主たちの間で行われていく意見交換。


「待ってください。政府に共有されているのは、ダンジョンが神々の力によって生まれたもの、としかありません。まず、世界そのものの厄災の力とは、何にか。そこか共有してもらいところです」


 そんな中で、夏瑠総理が話に割り込んでくるのだった。

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