千夜の刃
僕の振り下ろした刀は確実に九尾の腹を斬り裂いていた。
「……相も変わらず硬いようで」
これでも僕は地道に成長し続けている。
日本を襲った迷宮大氾濫。
その半分を僕は己の魔物たちで倒している。
その経験値、彼らが魔物を倒したことで得られる魔力はすべて僕の身へと帰ってきて、それ相応に基礎能力は向上している。
だというのに……僕の刀は九尾の体を僅かに斬り裂くに留めていた。
「ちぃ」
本当に忌々しい。
僕はすぐさま自分に向けられた九尾の尾を跳躍で回避しながら、彼の上空へと舞って刀を伸ばして、刀を振り下ろす。
刀は伸縮自在。
自由自在に刀を伸ばし、自分の好きな位置、好きなタイミングで刀を振るいながら、九尾の尾を淡々と回避していく。
「コォォォォォォォォオオオオオオオンッ!!!」
ちょこまかと避ける僕を九尾は睨みつけながら、その尾の振るう勢いを強めていく。
それでも、僕は相手の攻撃を避け続け、相手にだけ僅かな小さな傷をつけていた。
「……不味いか」
そんな中で、僕は辺りを見渡しながら、一人呟く。
九尾の尾。
それは僕を包囲するような形で動いており、徐々に包囲網を狭めてきていた。
逃げ出そうにも、僕は九尾の手のひらで動くばかり。
九尾に誘導されるような形で攻撃を避け、攻撃をさせられていた……逃げ出そうにも九本もある尾の勢いに僕は抗えなかった。
「……ハァァァッ!」
これまで九尾の尾ではなく、体の方だけを狙っていた僕は急にその矛先を変えて尾へと刀を振るう。
「やっぱ無理かっ!?」
一見するとフカフカそうなその尾ではあるが、僕の覚える感触は最悪。まるで自分の刀が通っていない感触があった。
手ごたえは体へと斬りかかっていた時よりもはるかに悪かった。
「こぉぉぉぉんんッ!」
僕が尾に斬りかかり、そして、得られた硬い感触で体を硬直させた時を狙って、九尾がその九本の尾を一気に自分へと向けてくる。
包囲網は不用意な僕の行動により、完成してしまった。
「食らえっ!物量!」
そんな中で僕は迷いなくこの場で戦力にはならないような魔物たちを大量に自分の体から噴き出させ、魔物たちを纏いながら、強引に包囲網から逃げ出していく。
「具現領域」
僕はここで手を叩く。
産みだすのは絶対零度の、最果ての地獄だった。
冷気がこの場の覇者となり、すべてを凍り付かせていく。
「……っ」
「くぅぅぅぅぅぅうううううんっ」
それは九尾も、僕も例外じゃない。
共に体をゆっくりと凍りつかせていく。
それでも、僕は自分の周りにいる大量の魔物たちを僅かな暖房とし、暖を取っていた。
「こいつは何時までもその力を維持できるわけじゃない!持久戦でゆっくり、弱らせていくよ!」
そんな中で、僕の代わりに九尾の前に立つのは時雨さんだった。
「了解」
前回の僕は一人で耐え切れず、最後の手段を使わずにはいられなかった。
だが、今の僕には時雨さんがいる。
僕は一旦、彼女にこの場を任せ、暖に集中するのだった。
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