時雨さんがほぼ裸の前で僕の前に出てきたことがあったり。

 馬鹿みたいに広い風呂で僕が使い方がわからなくなっちゃったり。

 僕が一体、何処で寝るというのかで揉めたり。

 色々あり、実に大変だった東京に再びやってきた初日。

 だが、それを何とか乗り越えて無事に二日目を迎えた僕は時雨さんと共に早速、新宿ダンジョンの方へとやってきていた。


「……」


「……」


 とはいえ、昨日のこともあって、時雨さんとは少し、気まずいわけであるがぁ……。


「昨日のことは気にしないで頂戴……もう、なかったことにするから」


「そ、そうですね」


 共にダンジョンの低階層を進む中で、僕は時雨さんの言葉に頷く。


「切り替えて、お互いの話をしよう。これから戦う仲になるわけだから」


「まぁ、そうですね」


「だから、敬語もなしでいいわ」


「……これはお気になさらず。それで、多分ですけど、自分の能力関係ですよね?」


 いきなり美人な年上のお姉さんに敬語を使わずに頑張れ、などと言われてもちょっと困るよね。


「えぇ、そうね。ずいぶんと、便利そうなスキルを持っているようだけど」


「まず、自分のスキルは具象領域っていうもので、周りを自分が指定した空間内に変化させることが出来ます。例えば、この場を海の中へと変換。調伏した水棲の魔物たちを放ち、そのまま敵を嬲り殺しにしたり出来ますよ」


「それがわからないのよ。貴方のスキルはその具象領域なの?それが魔物の力を借りたものじゃなくて?なら、魔物を使役しているその力は何なの?」 


「それは、調伏と良い、スキルとはまた別種の力です」


「……どういうこと?」


「自分は神主なんですよ。ネットでの名前、ということではなく、文字通りの神社を代々受け継いできたね」


「それが、何の関係を?」


「僕の調伏はそこから来ているんですよ。自分の力はダンジョン由来ではなく、うちの神社」


「はっ……?そんなことあるわけ───」


「ダンジョンがあるんですよ?神くらいはいるでしょう。うちの神社は知名度こそ、驚くほどに低いですが、それでも格的なもので語るのならば、出雲大社にも負けないほどですよ」


 僕の調伏はどちらかというと、魔物に使うものではない。

 霊的なものや、己を失ってしまった朽ちた神を鎮めるのに使っていた力だ。

 ダンジョンの魔物にも効いたのはあくまで、副産物でしかない。


「い、いやいや……それで、納得できるわけが……えっ、本当なの?」


「本当ですよ。自分の強さの源流はここにあります。それでも、ここまでしっかりと神主としての力を振るえるのは僕くらいでしょうけどね。父は一応、調伏出来ましたが、そのレベルは僕よりも下でしたね。一体を調伏して、支配するので精一杯でしたよ」


「……千夜くんの数は?」


「さぁ?軽く万は超えていますけど……多すぎて、もう数えるのも無理ですね」


「……全部、解放することは出来るのか?」


「できますよ。一人でモンスタースタンピードを引き起こせますよ。何でしたら、これを地上で起こせます」


「……に、日本はとんでもない人に喧嘩を売っていたんじゃ」


「自分はこれでも神主ですよ。人類の敵として動くことはないので安心してください」


「それを、祈ることしかできないわね……悪い人には最初から見えていないけど」


「なら、良かったです。それで、まとめると、自分はスキル、具象領域で相手が苦手とする領域を作り出した上で、その領域内に適した魔物を展開して襲わせます。こんな感じですね。相手が術者自身を倒そうと近づいてきたとしても、僕の単体能力も圧倒的な魔力量によってかなり高いので、かなり隙はないです。己の戦闘に使える補助の魔物もかなりいますからね」


 もはやただの炎でしかない魔物、不知火を呼び出すことで実質的に炎系統のスキルになる。


「……本当に、理不尽なまでの性能をしているわね」


「自分でもそう思いますね」


 具象領域と調伏の相性がすこぶる良い。

 僕の魔物のプールがあれば、大体の環境でも最大の力を発揮できる。


「これで、私が自分の力を語るのがちょっと恥ずかしくなってくるわね……」


「いえいえ、時雨さんもかなり強いじゃないですか」


「私は今、足踏みしているけどね。Sに、なったのよね?」


「なりましたね」


「ふふっ、それじゃあ、負けていられないわね。それで、私のスキルだけど、かなりシンプルよ。相手の技による効果を受けない。以上よ」


「……ん?」


 相手の技……シンプル過ぎて範囲がわからん。


「言い方を変えると、物理攻撃しか効かないわ。トカゲの口から吐かれた炎とかも効きはしなかったわね。本当に、拳しか効かないと思っていいわね。行けるか、どうかは感覚でわかるわ」


「……なるほど」


「だから、もし、私が千夜くんの具現領域の中に呑み込まれたとしても、私だけはそこを地上のように立っているわ。私には本来の世界と、変えられた世界。その二つが何となく見えていて、それを感覚でうまく戦えるの」


「……もしかして、自分たちってかなり相性良いです?」


「はっきり言って、かなりいいと思うわ」


 ダンジョンの318階層を歩く中で、僕と時雨さんが異常ともいえるほどに圧倒的な相性の良さがある、ということがわかってしまうのだった。

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